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優斗くんが涙を目に浮かべながら、真っ赤な顔で私の部屋に入ってきたのは、龍斗くんが私たちと同じ学校に転入してからしばらく経った日の夕方のことだった。
いつものように宿題を放りだし、学校の図書館で借りてきた本を読んでいた私は、家の中で何が起っているのかを把握しきれていなかった。
物語の世界に閉じこもった私は、自分以外のことに注意を向けることができない。
だから、優斗くんの泣き声や、それをなだめる父、そして、困惑する龍斗くんの雰囲気に気が付けなかった。
何かが起こったと分かったのは、もう既に優斗くんと父の言い合いが一度中断し、静かに部屋に入ってきた優斗くんから話しかけられた時だった。
「Aは、お母さんのこと覚えてる？」
「どうしたの、急に」
「覚えてないよな」
「覚えてはないけど……」
「良いんだよ、それが当たり前だから」
震える唇がきゅっと結ばれる。優斗くんがその仕草をするのは、決まって私に自分の悲しさや怒りを隠そうとする時だった。
「優斗くん、何かあったの？」
「なにもない」
「……なにもないなんてこと、ないでしょ」
「……なんもねーよ、本当に」
いつまで経っても合わない目線。
きっと優斗くんは何かを隠している。
だから何か声をかけなきゃいけない。
そうしないと、いやなことが起こる気がする。
そうは思うけれど、何を言えばいいのか分からない。
なんとか言葉を探そうと手元の文庫本の側面を指でなぞるが、当然何の答えも出てこない。
当たり前だ。言葉は自分の中から湧き上がるものなのだから。
そうしている間にも時間は過ぎていく。
優斗くんはそのまま向きを変え、今日は友達の家に泊まるから、と言い残し、私の部屋を出て行った。
きっと優斗くんが玄関から外に出て行ったのだろう。
数秒の間の後、家中の空気が入れ替わる音がした。
優斗くんが平日、部活の朝練のために早く家を出かける時と変わらない音。
けれども、妙に居心地が悪い。
耳に残る。
引っかかる。
全てのことを知ったのは、その違和感を払いのけようと、リビングへ移動した時だった。
「優斗くんと喧嘩した」
「……は？」
ケーキ屋さんのオムレットを龍斗くんと二人でぱくぱくと頬張る父は、私の間の抜けた声に対し、だから喧嘩しちゃったのともう一度同じことを繰り返した。
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れお(プロフ) - 陽依さん» コメント有難うございます。そんな風に言っていただけて、本当に嬉しいです。ゆっくりですが更新していきますので宜しくお願い致します。 (2021年8月4日 0時) (
レス) id: 8293f3a179 (このIDを非表示/違反報告)
陽依(プロフ) - ほんとにこのお話大好きです！なんでとかはうまく言えないんですけど…これからも楽しみにしています！ (2021年8月2日 22時) (レス) id: 5f72745e3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：れお | 作者ホームページ：https://peing.net/ja/reosndy
作成日時：2021年6月26日 21時
