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「これ、桜の木でしょ？」
「そう、だけど……」
まるで、俊敏に動く小さな虫を見つけた猫のように、じっと木々から視線を逸らさない龍斗くん。
その姿は、見るもの全てに自分の好奇心を注ぐ、幼い子どものようだった。
「桜の木って、俺初めて見た。本当にあるんだ」
「え、ええ！？初めて見たの？」
「うん。だって、俺が住んでたところは、桜の木なかったから」
彼は、ぽかん、と口を開け、呆然としている私のことなど気にも留めず、そのまま話を続けた。
「だって、あの大学の敷地内、ケヤキとトウカエデしか生えてないんだよ。街路樹の定番しかないの。だからつまんない。花なんかこれっぽちも咲いてないし」
「……龍斗くんは、大学の敷地の中から出たことがなかったの？」
私の問いに龍斗くんは、小さく頷く。
その瞬間、私が頭の中で想像していた龍斗くんの育ちが、本当だったことが証明された。
龍斗くんの黒くて細い髪一本一本が、まだ冷たい風で揺れる。
もしかしたら、この子は、冬の屋外の、澄んだ匂いを嗅いだこともなかったのかもしれない。
空の高ささえ、新鮮なものに映っているのかもしれない。
「……でもね、年に一回だけ、高橋さんが出してくれてたの」
一番背の低い枝に腕を伸ばしたまま、龍斗くんは少しだけ楽しそうに話を続けた。
「高橋さんって、お父さんが龍斗くんのことを大学の外に出してたってこと？」
「そう」
本当はだめだったんだけどね、と龍斗くん。
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れお(プロフ) - 陽依さん» コメント有難うございます。そんな風に言っていただけて、本当に嬉しいです。ゆっくりですが更新していきますので宜しくお願い致します。 (2021年8月4日 0時) (
レス) id: 8293f3a179 (このIDを非表示/違反報告)
陽依(プロフ) - ほんとにこのお話大好きです！なんでとかはうまく言えないんですけど…これからも楽しみにしています！ (2021年8月2日 22時) (レス) id: 5f72745e3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：れお | 作者ホームページ：https://peing.net/ja/reosndy
作成日時：2021年6月26日 21時
