振り子みたいに揺れている ページ9
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あの夜、私を射抜く侑くんの視線が孕む熱は本物だった。
私なんかに向けていいものではない、そんな視線。
本気と冗談とをないまぜたような私たちの応酬には、確かにある種の熱がこもっていたと思う。
「……金曜ぶりやな、おはようさん」
「ん、おはよう」
それでも彼は、また素知らぬ顔をして私に声をかけるのだ。
体育祭のあれが白昼夢なら、今度は夜に見る夢だったかのように、何にもなかったのだと言うように。
教室に入ってすぐの席にいる私に挨拶をして、彼は自分の席に着いた。
去り際に、片手で私の席に紙パックの青汁を置いて。
「別に好きじゃないんやけどなあ、飲めるってだけで」
そうひとりごちて、側面に貼りついたストローを剥がす。
一口飲んで、口の中に広がる苦みを舌で転がした。
……いや、言ったか、青汁好きだって。
私が侑くんと過ごした、体育祭のあの夢のような時間の断片だから。
青汁の味うんぬんよりも、その存在が好きなのだ。
頭の切れる侑くんのことだから、多分私がそういう意味で青汁が好きであることをくみ取ってしまったかもしれない。
朝のショート、担任が連絡事項をつらつらと述べていくのを聞き流しながら、侑くんの方に視線をよこす。
刈り上げたサイドの毛は黒い。何度ブリーチしたのかも分からない金色の髪は、彼の片割れとの区別をつけるために染めたというのを聞いたことがある。
鼻筋がすっと通った横顔は、非の打ち所がないほど綺麗だ。
私たち以外に誰も人がいなかった季節外れの夜の海で、侑くんは「もう気づいているのだろう」と言った。
彼は多分、私があの冗談を本気で受け止めたことに気づいていて、その上で問うたのだ。
彼の意図は分からない。分からないけれど、どこかで期待したいと思っている自分がいる。あの冗談を何度も蒸し返すのは、あの言葉が本気だったからだと。
でも彼のことだから、きっと女には困らない。私みたいなつまんない女を手のひらで転がして遊んでいるだけかもしれないとも思う。
それは、体育館での時間も、海での時間も、まるで何事も無かったかのように接してくるから。
クラスメートから、青汁が好きなクラスメートになっただけだから。
期待したい私と、それを恐れる私と。
相変わらずジレンマに押しつぶされそうな私は、振り子のように揺れている。侑くんの本心なんて知らぬまま、一人恋心に身を焦がすだけ。
再びぼんやりと見つめた彼の横顔は、いつも通り飄々としていた。
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ひな(プロフ) - なぎささん» 初めまして、コメントありがとうございます！ドキドキしていただけてとっても嬉しいです！こちらこそ閲覧ありがとうございました！ (2018年9月20日 17時) (
レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
なぎさ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼致します。全体的に最高すぎて終始ドキドキしっぱなしで読ませていただきました…素敵なお話をありがとうございました…！ (2018年9月16日 16時) (レス) id: 2a6bd4d84b (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - あをいけさん» ありがとうございますイベント海コンビニのながれをつくりたかったのでうれしいですまじでありがとう (2018年9月14日 23時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
あをいけ(プロフ) - 海の次にある選択肢がビニコンなの最高に好きですごちそうさまでした (2018年9月14日 22時) (レス) id: 02a650837d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ひな
| 作者ホームページ：https://twitter.com/pp__synd
作成日時：2018年9月14日 21時
