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本当にずるいと思う。彼の尋ね方も、この状況も、何もかも。
私は何も言えずに、折りたたんだ紙袋を彼が持っていたレジ袋に突っ込んだ。
「……別に、罰ゲームなんやから冗談や」
「ほんまに?」
「さあ、内緒や」
いつぞやの彼の言葉をなぞるように返してみたけれど、何もかも筒抜けなのはわかっていた。
それでも、あの虚構でしかない拒絶さえ、私の心に大きな爪痕を残しているのだ。
本当のことなんて、言えるわけがない。
「そんな頑固な遠藤に、俺がお膳立てしたろか?」
「どういうことやねん」
不可解なその言葉に、思わず顔を上げて侑くんを見た。彼の唇がゆるく弧を描く。
その口の端からくつくつと笑い声が漏れた。そのまんまの意味や、といった彼は、私から目を逸らさないまま。
「俺、お前の告白断ったとき『出直して来い』って言うたやん」
そう言われてみればそんな気がする。
私が小さく頷くと、侑くんはせやから、と言葉を続けた。
「今が、出直すチャンスやで」
「何それ」
「お前が本気なら、受け止めたるっちゅーねん」
彼の視線に、ほんの少しの熱がこもった気がした。
侑くんはその言葉を「お膳立て」と称したのだ。据え膳食わぬは恥となるのだろう。
いつも飄々としている侑くんが、ここまでしてくれたのだ。その瞳に熱を宿して。
受け止めたる、という言葉に期待してもいいのは、ぴりりと肌に刺さるその真剣な空気が物語っている。
私は大きく息を吸って、座っていた車止めから立ち上がり、侑くんの正面に立った。
「侑くん」
「はあい」
スカートの裾を握りしめた。怖いって言ったら嘘になるくらい緊張していて、心臓が昼休みのあの時よりも早鐘を打っている。
「私、侑くんが好きやねん」
恥ずかしくって、うつむいた。
彼のスニーカーを見つめて次の言葉を待っていると、振ってきたのは笑い声。
「お前学習せんなあ、で? 俺とどうなりたいんやったっけ?」
悔しい。侑くんはいつでも一枚上手だ。
「……私と、付き合ってほしい」
「よくできました」
言った私の頭を、彼のおおきな手が撫でる。
あったかくて、ちょっとだけ安心するような、でもとてもドキドキするような、そんな、変な感じだった。
恐る恐る顔を上げてみる。不気味なくらい柔らかい笑みを浮かべた侑くんは、私の頭に乗せていた手をするりと私の頬に添え、言った。
「俺も好きやから、遠藤のこと」
*
a priori
(気持ちが、先だった)
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ひな(プロフ) - なぎささん» 初めまして、コメントありがとうございます!ドキドキしていただけてとっても嬉しいです!こちらこそ閲覧ありがとうございました! (2018年9月20日 17時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
なぎさ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼致します。全体的に最高すぎて終始ドキドキしっぱなしで読ませていただきました…素敵なお話をありがとうございました…! (2018年9月16日 16時) (レス) id: 2a6bd4d84b (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - あをいけさん» ありがとうございますイベント海コンビニのながれをつくりたかったのでうれしいですまじでありがとう (2018年9月14日 23時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
あをいけ(プロフ) - 海の次にある選択肢がビニコンなの最高に好きですごちそうさまでした (2018年9月14日 22時) (レス) id: 02a650837d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひな | 作者ホームページ:https://twitter.com/pp__synd
作成日時:2018年9月14日 21時