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「おつかれ、遠藤」
校門をくぐろうとした私に声をかけたのは、侑くんだった。
相変わらず飄々として、昼間のことなんかまるっきり忘れたようにけろりとしている。
侑くん、と呼ぼうとした彼の名前は、喉の奥に絡みついて出てこなかった。
ただ薄く開いた唇の隙間から息が漏れただけ。きっとバレー部の集団を抜け出して私に声をかけてくれたのだろうけど、今はそれが恐ろしかった。
彼の中で、クラスメートの中で冗談になった告白だが、私にとっては本音も混ざったものだったから。
どうしても彼の顔を見上げることができない。
「……遠藤」
「ん」
絞り出した愛想のない返事は、震えていたかもしれない。
侑くんはきっと私の気持ちもお見通しなのだろうから。怖かった。これ以上何かを言われるのが。
それなのに彼はいつでも、遠慮もなく私の引いた線を越えてくる。
ずかずかと、私の心の敏感なところに触れてくる。
「寄り道しようや」
「もう海は寒いから嫌やで」
そう言った私に、侑くんは俺も寒いのは嫌や、と笑った。
それから黙って彼の半歩後ろをついていくと、たどり着いたのはバス停から少し歩いたところにあるコンビニだった。
侑くんはコンビニに入るとすぐにレジ横を見て、肉まん二つと店員に告げる。
「俺のおごりでええよ」
「やった」
金を払った侑くんが、受け取ったビニール袋から肉まんを一つ取り出して私に手渡す。
コンビニを出ると襲ってきた肌寒い風に、温かい肉まんは嬉しかった。
二人でゲートタイプの車止めに腰掛けて、ほかほかと湯気を出す肉まんを頬張る。
おいしい、と漏らせば、侑くんも美味しいなあ、とつぶやいた。
「遠藤」
肉まんを平らげた私を、侑くんが見た。
名前を呼ばれてそちらを見ると、侑くんはやっぱり射抜くような視線で私を見つめている。
眉をひそめて彼の顔を見つめ返そうとしたけれど、恥ずかしくてできなかった。
「……なんや」
肉まんが入っていた紙袋を折りたたみながら、その手元だけを私は見ていた。
彼の視線を痛いほど感じたけれど、それでも私はそっちを見られなかった。
「お前さぁ、昼間のあれ、どこまで本気やった」
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ひな(プロフ) - なぎささん» 初めまして、コメントありがとうございます!ドキドキしていただけてとっても嬉しいです!こちらこそ閲覧ありがとうございました! (2018年9月20日 17時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
なぎさ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼致します。全体的に最高すぎて終始ドキドキしっぱなしで読ませていただきました…素敵なお話をありがとうございました…! (2018年9月16日 16時) (レス) id: 2a6bd4d84b (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - あをいけさん» ありがとうございますイベント海コンビニのながれをつくりたかったのでうれしいですまじでありがとう (2018年9月14日 23時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
あをいけ(プロフ) - 海の次にある選択肢がビニコンなの最高に好きですごちそうさまでした (2018年9月14日 22時) (レス) id: 02a650837d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひな | 作者ホームページ:https://twitter.com/pp__synd
作成日時:2018年9月14日 21時