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*12* ページ13

あの後、迎えの車に乗って一度実家へ帰った。

桜糀家があるのは東京郊外。
神宮寺家と比較的近いところにある。
到着後、國春さんに挨拶を済ませてから、案内されてAの元へ向かった。



「こちらです」

「……懐かしいね」

「はい、昔からほとんど変わりません」



俺を案内してくれたのはA専属の執事、橘さん。
30代前半で、穏やかな笑顔が紳士的な人だ。
10年前からAを見守ってくれていて、
俺とAにとって本物の兄のような人だった。

案内されたのは温室。
俺がAのところに遊びに来るときはいつもここでお喋りしてたのを覚えている。



「橘さんは、」

「はい、何でしょうか」

「俺とAの結婚、どう思う?」

「お慶び申し上げていますよ」

「……ありがとう」



橘さんは、前と変わらない温かな笑顔で。
その言葉は、俺を勇気づけるのには十分すぎた。

今度こそ、俺もAに伝えるんだ。



「お嬢様、レン様をお連れ致しました」

「……どうぞ」



Aが座っているのはやっぱり車椅子で。
昔から置いてあるAのお気にいりだった椅子は無くなっていた。
あるのは俺の分だけ。
橘さんが“ほとんど”と言ったのは、“Aの椅子以外”という意味だったんだと、改めて理解した。

橘さんが温室から出ていったから、温室には俺とAの2人だけ。



「お父様が急にごめんなさい」

「いや、俺もレディと話したかったんだ。
むしろ國春さんには感謝してるよ」

「……なら、良かったわ」



そう言ったAの笑顔は儚くて。
どうしようもないくらいに胸が締め付けられた。



「……レディは俺のこと、恨んでる?」



沈黙が流れる。



「俺がレディと連絡を絶っていたこと」

「……」

「言い訳なんてしない」

「……」

「君に伝えたいことが「神宮寺さん」__っ」



俺の言葉は遮られた。



「……ごめんなさい。
今日は気分が優れないの。
またの機会にしていただけません?」



そう言って俯いたAの顔を
射し込んだ夕日が照らす。



「……俺こそ、急に話そうとしてごめん」

「ねえ、神宮寺さん」

「何だい?」

「……ごめんなさい」








ああ、またそうやって謝る。

夕日に照らされたAの頬を伝う涙から
目が離せなかった。

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儚霧(プロフ) - タナトフィリアさん» コメ有難うございます。ネタはあっても文章が纏まらないので死ぬほど亀更新ですが、精一杯頑張らせて頂く所存です。これからも宜しくお願いしますm(__)m (2018年7月8日 16時) (レス) id: 4f1bc6d88e (このIDを非表示/違反報告)
タナトフィリア - とっても面白いです!続きがとても気になります!更新楽しみに待ってます! (2018年7月8日 13時) (レス) id: 41c9a6a89d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:儚霧 | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年2月14日 1時

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