彼でよかった ページ42
他にも幹部の方々や、
幹部直属部隊の兵士達が次々とやって来た。
見る見る内に、
ベッドの横が見舞いの品で埋まる。
────私の部屋でも無いのに、
こんなに置いて良いのだろうか。
私は、困ってしんぺい神隊長を見やったが、
彼は、“愛されてるね。”としか言わなかった。
ようやく、少し落ち着いて、
私がゾム隊長から貰った林檎をナイフで剥いていた時。
「邪魔するで。」
と、聞き慣れた声がした。
顔を上げると、あの薄い笑みが見えた。
『鬱先生。』
隣の椅子を指して、座る？ と尋ねたが、
鬱先生は首を横に振った。
彼の目に光は無く、渇いた印象だ。
「…………怪我しとるな。」
『うん。した。』
私は臆せずに、頷いた。
端に置いた、冷めたマグの中に、
唇を噛み締める鬱先生の顔が映る。
それはとても痛々しく見えた。
声を荒げる事もなく、
彼はただ、立ち尽くしていた。
────呆れたかな。
ついに、見離されるかも。それは嫌だな。
それでも、静かに私は、微笑んでいた。
ここで引くのは、違う気がするからだ。
叱責するか、笑いかけるか、
果ては見舞いに来ないか。
彼がどんな行動を取るか、いくつかシュミレーションをしていたが、
そのどれも正解では無かった。
鬱先生は、私の顔を見て、
ふっと息を吐いたのだ。
自分の手元にあるナイフと林檎を優しく奪う。
「僕が切るわ。」
『切れるの？ 鬱先生。』
「しっつれいやなあ。」
相変わらず、ヘラヘラと、
感情を漏らさないように笑っていた。
彼は覚束ない手付きで、林檎の手を剥き始める。
危なっかしいな、と思いつつも、
私は彼の奮闘を見守った。
静かな医務室の中でシャリ、シャリと、
皮が削れて落ちる音が響いた。
────怪我しないと良いけど。
私は、鬱先生の顔を覗き込んだ。
手の中の林檎と睨み合う彼は、
蒼の瞳をぼんやり照らしてナイフを動かしていた。
────優しい人だ。
私は、彼の目をじっと見上げる。
彼の眼光が揺れる。
青い目から、
ぽつり、ぽつり、と光が床に落ちた。
────私は良い友人を持ったなあ、と思った。
鬱先生は林檎を剥きながら、
きっと色んな事を想像したのだろう。
私の未来を案じてくれる、大切な友人だ。
でも、私は彼にただ微笑みかけた。
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ユズリハ(プロフ) - はじめまして、深夜にコメント失礼します。「段階を踏め｣のkn氏の「あのd/先/生は、10代の頃のd/先/生なんやな｣というセリフが本当に素敵で、読んだ後しばらくセリフを反芻してしまいました。u/先/生の気持ちを想像して本当に素敵な文章だと感じました。応援してます (2021年3月15日 4時) (
レス) id: 4ab6b4c8e6 (このIDを非表示/違反報告)
そね(プロフ) - どらこさん» コメントありがとうございます。日課だなんて恐れ多い位嬉しいです。どらこさんもお身体にお気をつけて下さい。 (2020年5月4日 20時) (レス) id: a65daacb18 (このIDを非表示/違反報告)
どらこ - 毎日そねさんの作品を見るのが日課になっています！素敵な作品をありがとうございます、お体にはお気をつけて！ (2020年5月3日 19時) (レス) id: f300ebe4ea (このIDを非表示/違反報告)
そね(プロフ) - しおりんさん» 前作からコメントありがとうございます。勝負の結果は最後まで悩んでいたのですが、お褒め頂いて嬉しいです。コロシアム良いですよね。 (2020年5月3日 18時) (レス) id: a65daacb18 (このIDを非表示/違反報告)
しおりん - (敬語出来てるかな？タメ口になりそうだな〜語彙力溶けてそう､､いや溶けた) (2020年5月2日 23時) (レス) id: 527cd6ca75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：そね
| 作成日時：2020年4月26日 0時
