君、幸勿れ。 (ページ13)

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「……A…、」

夜遅く家に帰ってきてAの寝顔見て寝るっていうなかなかに気持ち悪い日課。日中に会って普通に話せる余裕が無いからそうしてるのに、兄さんって呼んで笑うAが見たいなんて願望は自然と出てくる。

どれだけクズなことやっててもAは当たり前に迎えるし、兄さんお疲れ様って嬉しそうにするし、すぐに家を出る俺に寂しそうな顔して、でもそれを押し込むみたいに行ってらっしゃいと言う。

変わらないんだよ、何も。

構ってくれとねだる小学生でもない。自分の考えを持って行動出来る歳だ。それでも俺のことを待っててくれるし、ラップが掛けられた料理は俺の好物ばかり。

たまにコンビニで買ったお菓子あげるだけで世界一美味しいなんて大袈裟なこと言っちゃう。それ俺が作ったわけじゃないよって言っても兄さんからもらったものは何でも世界一だからと返ってくる。嘘みたいな純粋さ。そんなわけねぇじゃんって冷めたことが浮かぶよりも圧倒的に可愛いが勝っちゃう。

だから自分が何をしてもAは変わらず俺を大事な家族だと思ってることは確実で。

でも俺はそれを望んでないわけだから。

なんで妹なんだよ。他人なら出会って恋に落ちて結ばれて、例え相手がいたとしても奪うくらいでハッピーエンドだろ。こんな、気持ちを持つことも許されないなんて誰が決めた。倫理観でどうにか自制出来るなら悩んでねぇんだよ。

別に自分の気持ちを示してそれで他人から批判されようが軽蔑されようがもうどうでもいい。

だけどそれやって困るのはAなんだよ。俺がどうでもいいと思っててもAが辛くなってたらなんの意味も無い。悲しませたくないってのがギリギリのブレーキ。勢いで行きがちな俺からすればかなり頑張ってる。

多分Aは、戸惑いながらも結局は受け入れてくれるんだろう。俺の持つ感情を理解しないままに、好きと言えば好きと返ってくる。ずーっと兄妹愛の延長線上を。

それでもいいなんて言ってしまえばそれまでだけど、いつか本当の愛を知ってしまった時。それは俺から離れていくことを意味する。は、無理。そんなの堪えられる気がしない。近くにいて誰のものでもない今でもやばいのに。

…だったら、幸せなんか知っちゃう前に。

どうせ元から幸せになんかなれないんだ。だから、まだ離れられるうちに離れてよ。傷付けるって分かってるから言葉ですら伝えられないけどさ。最低だって言われた方が、まだマシだ。