Sugar blood (ページ25)

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Aは何もしなくていいと言われるけれど、テヒョンくんが学校に行っている間の時間はとても暇だ。暇だから、大して好きでもない掃除でもしようと思う気になる。得意でもない掃除をやるから、棚に思い切りぶつかってしまった。バサバサと資料やら本やらが落ちてくる中で、一つだけカランと音がして。

『……ルージュ…？』

なんでこんなものが出てくるんだろう。これがあるということは他に女の子がいるってことなのに、嫉妬よりも化粧品がどんなものかという好奇心が勝る。

『…！！』

興味本位で蓋を開けた時に目に入る強い赤。
ズキンと強い痛みが頭を襲う。

『…っうぅ…』

痛みでしゃがみこんでしまったと同時に大量の映像が、色が、匂いが、感覚が。五感全てで呼び起こされるもの。痛くて苦しくて辛くて悲しくて泣いてばかりの暗い日々。毎日が黒だった。でもそれを全部掻き消すくらいの。

『……先輩、…』

私を救ってくれた、唯一の、光。

なんで忘れてたんだろう。どうしてあの時それでも先輩といることを選ばなかったのだろう。例えどんな人であろうと、私を生かしてくれたのは紛れもなく先輩なのに。恩を仇で返すなんてそれこそ生きてる価値がない。

『…帰らなきゃ、』

もしかしたらもう新しい食糧を見付けてるかもしれない。私はもう、本当に用済みかもしれない。

それでもまだ、先輩の言葉で拒絶されたわけじゃないから。これからどんなに辛いことを言われたとしても、無視されたとしても、ちゃんと受け入れるから。

『……はぁっ、…』

家を飛び出して、ただ無我夢中に走った。息が切れて心臓がしんどくなっても構わずに走った。涙とか汗とか流れてぐしゃぐしゃでぶっさいくだし、髪とかボサボサだし。でもそんなもの全部気にするよりも、先輩に会いたかった。

いつもキムテヒョンがただいまって言う度に、違和感を感じていた。ここは私が居ていい家ではない感じがして、上手く言えなかったおかえり。…あぁでもやっと分かったんだ。だって私の帰る場所は、一つしかないんだよ。