Sugar blood (ページ20)

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「…テヒョン、」

苦虫を噛み潰したような顔で、へらへらと笑いながら話し掛ける男を見る先輩。

「その子Aちゃんじゃん。なんでヒョンが抱き締めてんの？」
「……別に、」
「それにヒョンさっきなんて言ってたっけ？
こいつは俺のだって？そんなわけないじゃん。Aちゃんは横取りしないでねって俺ちゃんと言ったよね。」
「………」
「ヒョン。これどういうこと？」

作り笑いだったのがいつの間にか無表情になり、凍りついたような空気が支配する。

キムテヒョンの口振りから二人は私が先輩と会う前から知り合いだったみたいで。先輩はキムテヒョンが私を追い詰め始めた頃から私の事を知っていたとしたら、あの出会いは偶然ではなく仕組まれていたのだろうか。吸血鬼には催眠の能力があるのだから、そんなことは造作もないのかもしれない。

『…あぁ、そういうことか。』
「……A…？」

おかしいと思ったんだ。なんで先輩みたいな素敵な人が私のことを好きになってくれたんだろうって。でもそれが、暇潰しの余興だったとしたら。

『…私は最初から、手のひらで転がされてたんですね。』

あの瞬間でまんまと先輩に引っ掛かってしまった私はさぞ滑稽だっただろう。簡単に落ちて、手応えなんて全くなかったかもしれない。別に遊ばれててもいいって思ってた。でも実際そうだったって分かると、結構きつい。

『…すみません先輩。本命気取りでいい迷惑でしたよね。』
「違う。待ってA俺は、」
『やめて！！……っ、ください…』

いたたまれない。ものすごく痛い女だ。
これ以上先輩の前にいたくなくて、掴まれた腕を思い切り振り払ってしまった。それでも先輩の傍にいたいですと割り切って振る舞うなんてこと、出来るわけがなかった。自分が弱い弱い人間だということを思い知った。

「……はぁ、」

振り払った手に一瞬ぽかんとした後、溜め息を吐かれてしまった。

…あぁ、面倒くさいと思われた。

先輩は面倒くさいことが何よりも嫌いだってこと、知ってたはずなのに。どんどん負の連鎖が続いていって、弱く脆い私は涙を抑えることも出来ない。

『……ごめん、なさい…』

馬鹿な私には逃げるしか方法が分からなかった。まともに言えたかも分からないような謝罪。イラつかせると分かっていても、この言葉を伝えることで精一杯だった。