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第5話 箱庭 ページ6

ここはまるで閉ざされた王国のようだ。
闇の中で翻る傍らの大きな旗を眺めながら、鳳綾はそう思った。生暖かい風が、制服のスカートを揺らしていく。
眼下にはありふれた街並みが広がっていた。綾の立っている高い場所から、見慣れた風景がゆっくりと夜の空気をまとっていくのがわかる。
小さな世界。閉じた箱庭。時期が来れば、いずれ綾自身もこの場所から出ていくだろう。
………それでも。
綾はこの秩序を、平穏を心から愛していた。それを破壊することは、罪だ。
ひときわ強い風が吹きぬける。それを正面から受け、目をすがめた。

……………これは賭けだ。
全校集会の際、姿形も知らない殺人犯に向けて講堂であんな挑発的な宣戦布告をして見せたのは、綾自身の矜持からだけではない。殺された女子生徒に涙する生徒たちを目にして痛みを伴うやるせなさを覚えたのは事実だが、それ以上に、綾の胸の奥にあったのは、純粋な怒りだった。
都市伝説の殺人鬼?そいつが蘇って、少女を殺す?
ふざけるな。そんな現実を、徹底した現実主義者である綾は認められない。否、認めない。
だから、壇上で挑戦状を叩きつけた。私はお前の存在を否定すると。噂話の中の殺人鬼とやらがもし本当にいるのなら、目の前に姿を見せろと。その後の騒ぎは自分が反発する前よりも大変なもので、担任教師の火浦にまた指導室に呼び出されてうんざりしたが、後悔などしていない。
顔を上げ、闇に沈んでいく景色を見渡す。夜の中、1人きりで立っている自分がひどく無防備に感じられた。大きく息を吸う。夜の一部が、ちぎれて肺に吸い込まれていく。綾は毅然と暗がりを見据えた。
さあ、この私を殺せるものなら、殺してみろ。
殺人鬼はこの誘いに乗るのだろうか。奴はここに来るかもしれない。来ないかもしれない。どちらにせよ、おめおめと逃げ出す訳にはいかなかった。綾が綾であるという誇りに懸けて。

その時、風の音に混じって、何か物音が聞こえた気がした。

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未来龍/ms(プロフ) - うんうんッ!!まさに続きが気になる感じダァァッ!!!評価も10(越していいだろ)!!がんばってェェッ!!!!! (2018年7月13日 21時) (レス) id: 56b1dd838e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Apple(林檎野郎ww) | 作成日時:2018年7月12日 23時

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