＊番外編 神の国にて19 ページ22
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿＿＿＿＿＿
＿＿＿＿...
私が館の外に出ると、雨は酷くなっていた。
…本当、なんでこんな日に呼び出したかなあ。
降りしきる大量の雨粒が、それらが地面に打ち付けられる音が、視界も聴覚も奪っていく。
一歩、屋根から出ると一瞬で体中が雨に濡れた。トリオン体であっても衣服が張り付く不快感は消せない。
それでもしばらく、少しこうしていたかった。
＿＿＿先ほどのことが頭を過ぎる。
『俺が憎いか？』という問いに答えた私に向けた、あの人の声や表情。
…憎い、とその目を見て答えられるくらい何も知らなかった頃なら、こんな気持ちにならなかったかもしれないのに。
どれくらいその場にいたのか。数十秒だったか、数分だったか、もしかしたら数十分だったかもしれない。＿＿＿ふと突然身体を冷たくしていた雨が止む。
館の薄暗い外灯の明かりで形作られた、私より少し長い影の主が、「…帰るぞ」と傘を差し出していた。
「…あの人に呼び出された話なんてしたっけ」
「いや、当主様に聞いた」
「そっか」
大きな雑音の中、聞き慣れた声をなんとか拾い合う。
…嘘だ。ハイレイン様も私も、当主様にいちいちこんなこと知らせたりしない。
視界の悪い中で隣の彼の足元を見ると、ズボンの裾は泥が跳ねて真っ黒くなっていた。
雨の中色んなところを探し回ったんだろう。
…ありがとう、と小さく呟いた言葉は彼の耳にしっかり届いたらしい。素っ気無い返事が返ってきた。
＿＿＿傘を傾けて空を仰ぐと、いつの間にか薄い雲の隙間から月の光が漏れ出ていた。
それは幻想的な風景で。…そういえばもう春だ。冬は、終わったのだ。
隣を歩く彼も雨が止んだのに気づいたようで、二人で傘を畳む。
「髪までずぶ濡れだな、先に風呂に入れ」
「私はトリオン体だから。ヒュースはそれ、実体でしょう？」
「…」
屋敷前、月明かりのもと。
初めて気づいたように、あ、なんて声を漏らす様子に思わず噴き出した。
＿＿＿＿...雨が降っても、傘をさしに来てくれる人がいる世界なら。
自分の泥まみれの格好を見て苦々しい表情をする彼に、今度はちゃんと目を見て、ありがとうと笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 445人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ワールドトリガー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
フォルテ(プロフ) - ゆかりさん» コメントありがとうございます。そのような言葉を頂けると本当に励みになります。これからも更新頑張ります。 (2021年3月13日 1時) (
レス) id: 6f3841a0ac (このIDを非表示/違反報告)
ゆかり(プロフ) - この作品が大好きです。これからも応援してます。頑張ってください。 (2021年3月12日 7時) (レス) id: 62a35361d3 (このIDを非表示/違反報告)
フォルテ(プロフ) - ゆかりさん» コメントありがとうございます。そういって頂けて嬉しいです。これからも更新頑張ります！ (2021年3月10日 22時) (レス) id: d29ecefbc9 (このIDを非表示/違反報告)
ゆかり(プロフ) - この作品が終わる何て寂しいです。最後まで楽しみに待ってます。頑張ってください。応援してます。 (2021年3月10日 18時) (レス) id: 62a35361d3 (このIDを非表示/違反報告)
フォルテ(プロフ) - ゆかりさん» こちらこそコメントありがとうございます。物語も佳境を迎えているので、どうか最後まで読んで頂ければ幸いです！更新頑張ります。 (2021年3月10日 18時) (レス) id: d29ecefbc9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：フォルテ | 作成日時：2021年3月2日 18時
