第187話 ページ25
(迅side)
迅「A、風邪ひくよお前。そんな薄着で」
A「迅。…ごめん、ありがとう」
二月の夜はまだ寒い。屋上に出ると冷たい風が頬を撫でた。
二人分のホットミルク。彼女に片方渡したときに触れあった指先は温かくて。
…トリオン体だったのかと、その時初めて気づいた。
寒さを感じてないと分かっていても後ろから毛布をかけてやれば、お礼と共に彼女はそれに包まる。
胸の前で毛布の端を寄せると、細い手首からシャラリと音がした。
A「どうかしたの？」
迅「＿＿＿...いや、お前が風邪ひく未来が見えてね」
A「ふふ、それはありがとう」
Aは、明らかな嘘でも指摘せずにいてくれる。
こいつのこういう所は、本当に敵わないと思う。
…さて、どう伝えるべきかな。
最近、嫌な未来がいくつも見える。
彼女が泣いている未来。この間の敵と話している未来。戦っている未来。奴らの艇に乗っている未来。連れ去られる未来。＿＿＿＿...殺される未来。
この数日中に、きっとその出来事は起こる。
沈黙を続ける俺を、彼女は不思議そうに覗き込んだ。
A「＿＿＿＿...迅。もし今度私に何かあっても、絶対自分のこと責めないでね」
沈黙を破ったのは、Aのその一言だった。
その言葉にふ、と息が止まる。どくりと心臓の音がした。
…サイドエフェクト。
A「多分それは、私がしたことへの正当な罰だから」
迅「…お前、どういう意味？それ」
A「そのままの意味」
その不穏な言葉とは裏腹に、形の良い唇が弧を描いた。
川の流れる音、支部の中から聞こえてくる笑い声がどこか遠くに聞こえる。
静寂を破ろうと「意味分かんないって」なんて言ってみるが、俺の声は微かに震えていた。
俺の焦りを知ってか知らずか、彼女はまた綺麗に笑う。
＿＿＿＿嵐の前のように穏やかに流れるこの時間が、俺にはどうしようもなく恐ろしかった。
A「迅に未来は見えても、過去は見えないでしょう？」
ザアア、と風が吹いて、髪が彼女の横顔を隠す。
A「この四年間、色々あったんだよ」
本当に、色々。
迅や小南には言えないようなこと、向こうで沢山してきた。
私、その責任まで迅に取らせる気なんてないよ。
風が止んで星に照らし出された彼女の横顔は、あまりにいつも通りだった。
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フォルテ(プロフ) - ゆかりさん» コメントありがとうございます。そのような言葉を頂けると本当に励みになります。これからも更新頑張ります。 (2021年3月13日 1時) (
レス) id: 6f3841a0ac (このIDを非表示/違反報告)
ゆかり(プロフ) - この作品が大好きです。これからも応援してます。頑張ってください。 (2021年3月12日 7時) (レス) id: 62a35361d3 (このIDを非表示/違反報告)
フォルテ(プロフ) - ゆかりさん» コメントありがとうございます。そういって頂けて嬉しいです。これからも更新頑張ります！ (2021年3月10日 22時) (レス) id: d29ecefbc9 (このIDを非表示/違反報告)
ゆかり(プロフ) - この作品が終わる何て寂しいです。最後まで楽しみに待ってます。頑張ってください。応援してます。 (2021年3月10日 18時) (レス) id: 62a35361d3 (このIDを非表示/違反報告)
フォルテ(プロフ) - ゆかりさん» こちらこそコメントありがとうございます。物語も佳境を迎えているので、どうか最後まで読んで頂ければ幸いです！更新頑張ります。 (2021年3月10日 18時) (レス) id: d29ecefbc9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：フォルテ | 作成日時：2021年3月2日 18時
