第三十一話 ページ31
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「離して」
「…」
「臣…痛い」
私の手首を臣が掴んで離さない。
何か言いたげで、苦しそうな顔をしている。
でも何を言われたって私の気持ちは変わらない。
「…好きだ」
「っ…」
絞り出すように声を出した。
臣の口から出たその言葉、告白された時以来の好きだという言葉。
そこまでして私を繋ぎ止めたいの⁇
なんでよ、分かんないよ。
「遅い…遅いよ。もう遅すぎる。」
もっと早くその言葉をくれていたら私達は変わっていたのかもしれない。
うまくいかない、煩わしい。
堪らず涙が溢れて落ちた。
「A…」
臣が弱々しく私の名前を呼んだ次の瞬間。
ドンッと大きな花火の音が鼓膜を揺らした。
ああ始まっちゃったよ花火。
楽しみにしてたのにさ、綺麗すぎる花火が凄く皮肉に感じる。
「おまたせAちゃん」
不意に背後から侑君の優しい声が聞こえた。
ハッとしたのも束の間、目の前が真っ暗になった。
何かに顔を覆われた、それが侑君のウサギのお面だとすぐに理解する。
「臣君こんな所で何してんの、花火見に来たん⁇ まあ何でもええけど、取り敢えずその手どけてや」
真っ暗で何も見えない。
背後から聞こえる侑君の声はさっきみたいな、緩和させるような声だけど、どこか威嚇する様に聞こえる。
すると私の手首を掴んでいた臣の手が解けた。
「もう別れてんのやろ2人。臣君、未練たらしい事はやめえやAちゃんは決心ついとんねん」
「…お前には関係ないだろ」
「関係ない事あれへんよ、俺Aちゃんの事好きやし。なあ、臣君いい加減Aちゃんに依存すんのやめたら⁇ 全部身から出た錆やで。恨むんならAちゃんの事大事にしてこーへんた自分を恨むんやな」
侑君は怒っていた。
お面の目の部分に空いた小さな穴から辛うじて見えた臣は、侑君の言葉に顔を歪ませていた。
何も言い返さず、ただただ辛そうな顔をしている。
「ほなせっかくの花火やし俺らは此処でお暇するわ。臣君また明日練習でな」
「行こか」と小さく呟いた侑君に手を引かれる。
臣はもう何も言わなかった。
これで私と臣は完璧に終わりにする事が出来たのだろうか。
それならそれで安心する筈なのに、心の奥深くの靄が現れて消えない。
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作者名：林檎 | 作成日時：2020年6月19日 16時
