第三十話 ページ30
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私の目の前に現れたのは侑君じゃない。
侑君より少し背が高くて、癖のある黒髪と眉毛の近くにある黒子が特徴のその人は、息を切らして私を見据えている。
元恋人の、
佐久早聖臣だった。
「臣…」
どうしてこんな所にいるのか、もう3ヶ月以上会っていなかった元彼を目の前にして私の頭は回らない。
「お前…なんで電話出ねえんだよ。」
そんな中、彼が言った第一声に私は正気に戻った。
「なんでって……分からないの?」
それは、と臣は言葉に詰まる。
終わりにしようって、私言ったでしょ?
ていうかこの人混みの中よく見つけられたね。
気まずい沈黙が続く。
そのうち侑君も戻って来る。鉢合わせなんてごめんだ。
「おい、まだ話終わってねえ」
この状況に耐えられなくなって、取り敢えずその場を去ろうとすると、臣が私を引きとめた。
「話⁇ 話す事なんてないでしょ⁇ 話って、じゃあ臣は今まで喧嘩した時私の話聞いてくれてた⁇」
臣の自分勝手な言葉に、苛立ちの乗った声で言い返した。
ちゃんと向き合って話し合いなんて私達には無かった。
私が必死に話しても、臣は聞く耳を持ってくれなかったじゃん。
面倒くさいって言って。ねえ、忘れたの⁇
「…悪かった」
「その場しのぎで謝らないでよ、何にも解決してないって…」
いつもそうじゃん、臣はいつも別れてからじゃないと何も言ってくれない。
遅いよ。私ならまた許してくれるとでも思ってたの⁇
そこまで私もお人好しじゃない。
「もう一緒にいれない、臣といても虚しいだけなんだよ。もう疲れた…」
私の放った言葉に、臣の表情が曇る。
「……俺が変わったらいいのか⁇」
その気もないくせに臣が言う。
変われる訳がない。何度期待を裏切られたか。
もう同じ事の繰り返しは懲り懲りなんだよ。
「俺が変わったらA、」
「変わらなくていい、臣は臣のままでいてよ。」
私はもう臣とはヨリを戻さない。
臣の言葉を遮って、自分の言葉を伝えた。
困惑した目で私を見る臣から目を晒す。
ここで揺らいでしまったらそれこそ終わりだと思ったから。
「お前は…俺の事忘れられるのかよ。」
「…忘れるよ。臣じゃない誰かと付き合って、幸せになって、少しずつ思い出さなくなって、そのうち臣の事なんか忘れるよ。」
だから臣も私の事なんか忘れてよ。
お願いだから、そんな泣きそうな目で見ないでよ。
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作者名：林檎 | 作成日時：2020年6月19日 16時
