第五話 ページ6
.
朝か…なんか久し振りによく眠れた気がする。
ランニング行かねぇと。
それにしても瞼が重いな。
ああ昨日俺泣いたんだった。
Aの前で泣くとか最悪すぎる、女々しい男だって思われたに違いない。
昨日もあいつが「そろそろ寝よう」って言わなかったらずっと動かなかっただろうし。
はあー……ほんと最悪。
「……は⁇」
隣で寝ている筈のAが居ない。
一気に脳が覚醒して、目が覚めた。
慌てて体を起こしてみても、やっぱりそこにAは居なかった。
神様なんてものは存在してなかったようだ。
あれは…昨日のあれはやっぱり幻だった。
だとしたらなんて残酷で生々しい幻だよ。
それもそうだ、あいつが俺の所に戻ってくるメリットなんて1つもない。
俺もほんと救えねえ奴だな、向こうはもう俺のことなんか忘れて宮と幸せになってるっていうのに、あいつの事で雁字搦めになって一歩も動けないなんて。
精神科だ。
こんな事が2度とあってたまるか。
元カノが忘れられない、毎日眠れなくて困っている。
挙げ句の果てには幻まで見ましたなんて、馬鹿にされても無理はない。
チームメイトには…いや、古森にも黙っておこう。
「………クソ…」
結構しんどい。
こんな思いするくらいなら、高校のあの時あいつに告白なんかするんじゃなかった。
頭の中で古森が「それは違うだろ⁇」って俺に言ってくる。
うるせえよ、俺もほんと疲れたんだよ。
ガチャン。
玄関のドアの鍵が回される音がした。
1人で住んでいる俺の部屋に、誰かが入ってきた。
するとさっきまでのネガティヴな思考が嘘のようにまた希望を抱いてしまった。
もしかして…⁇ いやまさか
いやでも、
「わっっっ‼ びっ…くりした、起きたんだおはよ」
…まじか、Aが帰ってきた。
スーパーの袋をぶら下げて、急に寝室から顔を出した俺にすごい驚いた顔してる。
「朝ご飯作ろうと思ったんだけど冷蔵庫の中身空っぽだったし材料買ってきた…って、痛い痛い痛い‼」
「本物か…⁇ また幻じゃあ…」
「なに言ってんの⁉ 寝ぼけてるなら早く顔洗ってきなよ、だから痛いって‼」
また幻かと思ってついAの両頬を抓って確認を試みた。
なんて事だ。
幻じゃなかった。神様はいた。精神科に行く必要もなかった。
こいつは…
「ほんとに帰ってきたのか…」
「…帰ってくるよ」
そう困ったように笑う。
俺はまた泣きそうになった。
.
1771人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:林檎 | 作成日時:2020年7月17日 0時