第三十七話 ページ38
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帰宅して、少ししてから先にお風呂に入って、臣もその後入って、1人になった途端どうしようもない寂しさと悲しみに襲われた。
スマホを見れば19:30と表示されている。
外はもう真っ暗。
次に空の色が変わる頃には日付けが変わっていて、そしたら何の関係もない2人だ。
走馬灯みたいに今までの楽しかった日々が轟々と頭の中を流れて行った。
勿論辛かった思い出も沢山あるけど、今は何故か楽しかった思い出だけ流れた。
そんな映像を振り返れば振り返るほど、私の心臓はグサグサとナイフのような何かで抉られて、強い何かで握りつぶされるような痛みが走っていた。
涙が込み上げてきたのが分かる。
慌てて上を向いて零れ落ちるのを阻止するが余計に虚しくなってきた。
そういえば、ヨリ戻してから臣がキスしてくれなくなったのは何でなんだろう。
「A⁇」
まだ少し湿った髪の臣が私の名前を呼んだ。
すると我慢していたものが次から次へと頬を伝っていく。
臣の顔は見れなかった。
「え、おい。どうしたの」
突然泣き出した私の隣に臣がすぐ寄り添い、背中をさすってくれている。
その声は優しくて、暖かくて、より涙を作った。
「…A、泣かないで」
私も止められるものなら止めたいよ。
残り時間も少ないのに、こんなんじゃあ台無しじゃん。
せめて目を合わせればいいのに、何でも良いから何か言えば良いのに、目も合わせず何も言葉を発さないよりは臣が安心するだろうから。
だからって、今その言葉を選んだのは間違っている。
結局私は、自分の事で精一杯の自己中な人間だった。
「……キスしてほしい。」
私の背中をずっとさすってくれていた臣の手が、少しだけピクンと跳ねて止まった。
「断ってくれてもいい。…でも少しでも、ほんの少しでも私に触れたいってまだ思ってくれてるなら……」
これでもし断られたら今以上に泣いてしまうと思う。
臣は何も言わなかった。沈黙が部屋中を包み込む。
相変わらず目を合わせられない。臣がどんな顔をしているのか、どうしても見れなかった。
「……ごめん、嘘だよ。今のは忘れ、」
この状況に耐えられなくなって、自分勝手とは分かっていながらも「忘れて」って言おうとしたのに、その言葉は突然腕を引かれて言い切れなかった。
臣と目が合った。
その目は真剣で、何か言いたげで、どこか悲しそうだった。
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作者名：林檎 | 作成日時：2020年7月17日 0時
