第三十六話 ページ37
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「ご馳走様でした!」
ぺろりと平らげたお皿に両手を合わせる。
また食べに来たいなあここのオムライス。
あ、でも次はもう他の人と来るしかないのか。
やば、途端に悲しくなってしまった。
慌てて紛らわせるようにコップの水を飲み干す。
「ほんとに美味しかった! ありがとう臣」
「気に入ったんならまた、」
また来よう。
とでも、言いそうになったのか。
咄嗟に言葉を飲み込んだ臣にズキリと胸が痛んだ。
でも飲み込んでくれてよかった。もし最後まで臣が言葉に出してしまっていたら、私は「行きたい」と答えてしまうと思ったから。
私達は別れた。今日は特別なだけ。その事を忘れるな。
「そうだね、また行くよ」
「…うん」
気まずい空気を戻す為、必死に笑顔を作って見せた。
笑えてるだろうか。動揺は伝わってないだろうか。
臣の顔を見ても、その答えは分からなかった。
「そろそろ行こっか」
「そうだな」
レジに向かいバッグから財布を取り出すけど、先に臣が5000円札を出してお金を出す前にお会計が済んでしまった。
「あ、まってお金」
「いいから、財布しまえよ」
そういう訳にはいかない。
しかし財布からお金を取って差し出しても、臣は聞く耳を持たないといった様子だ。
仕方ないので素直に「ありがとう」とご馳走になる事に感謝した。
そして再び繋がられる手。
この後どうしようかな、言ってももう既に16時半だしな…
1日ってこんなに早かったっけ⁇
タイムリミットが刻々と近付いてきてる。
ああ嫌だな。帰りたくない。
無意識に握っていた手に力がこもっていた事には気付かなかった。
「A」
「あ、うん。なに⁇」
「ちょっと遠回りして帰ろう」
そう言って繋いだ手をジャケットのポケットの中に入れて歩き出した。
なにそれ、彼氏みたい。
いや彼氏だった時1度もこんな事された経験ないけど。
臣もまだ帰りたくないって思ってくれたのかな。もしそうなら嬉しい。
結局ちょっと遠回りして帰宅したのは19時前だった。
別に何かした訳でもなく、本当にただただ歩いていただけ。
途中野良猫見つけて追い掛けようとしたり、飛行機が近くで飛んでてビックリしたり、ママに抱っこされてる赤ちゃんに手を振ったり、特別な事はなにもしてない。
でもずっと続けばいいなって思った。
何気ないこんな時間がずっと続けばいいなって。
今日が終わるまで残り5時間。
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作者名:林檎 | 作成日時:2020年7月17日 0時