第三十五話 ページ36
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「よし、終わり⁇」
「うん。お疲れ」
「やったー‼ これ大家さん喜ぶんじゃない⁇」
ピッカピカになった部屋を見渡すと達成感に満ち溢れた。
2人共夢中で掃除していたから、時間の事忘れてた。もう2時過ぎ、お昼ご飯も食べていない。
デリバリーでもする⁇ と提案してみる。
しかし臣はその提案には頷かず、代わりに「外に食べに行こう」と言った。
気を遣わなくてもいいのに。
今日が最後だからって、無理して私に合わせなくても。
「お前は掃除するの無理してた⁇」
「まさか‼ そんな訳ないでしょ」
「俺も一緒、無理してない。行こう」
そう言い切ると、臣はジャケットを着て玄関に向かった。
優しいな、私の食べ切れなかったパンも食べてくれたし、ホームセンターの帰りには手も繋いでくれたし。
最終日だからなんだろうけど。
…いや、それでもいいじゃん。最終日なんだから、臣の優しさに甘えよう。
「臣クン手繋ごうよ」
アパートを出てから今度は私から手を差し出した。
臣は少し考え込むように眉間に皺を寄せる。
それはほんの僅かな間で、すぐに表情を戻して私の右手に自分の左手を重ねてくれた。
自然に笑みが零れ落ちる。
「何食べたい⁇」
「んー、卵かな」
「アバウト過ぎる」
そう言いながらも、スマホでお店を調べ出した。
連れて来られたのは、お洒落で小さなオムライス店。
中に入ると美味しそうな匂いにますますお腹が減ってくる。
専門店なだけあってメニューの多さにはかなり悩まされた。
王道のデミグラスか、でも折角だしたらこクリームとかジェノベーゼとか…んー、優柔不断で決められない。
「…どれと迷ってんの」
「2つまでは絞った‼ デミグラスか、ジェノベーゼか。どれにしようかな…」
「俺が片方頼むから、それ食べたらいいじゃん」
神様ですかあなたは。
つい「いいの⁉」って声を上げてしまえば「うるせえ」って怒られたけど。
注文したオムライスが運ばれてきた。
スプーンを差し入れて口に運ぶと、それはもう感動した。
今まで食べた中で1番美味しい気がする。
幸せを噛み締めていると、向かいの席に座る臣がフッと笑い出した。
「なに笑ってんのさー」
「いや、すげー旨そうに食べるから」
だって本当に美味しいんだもん。
「こっちは⁇」
「…やばい最高」
「それはそれは」
優しく臣が微笑んだ。
今日が終わるまで残り8時間。
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作者名：林檎 | 作成日時：2020年7月17日 0時
