第二十七話 ページ28
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「おいこれ車乗るか⁉」
「傾けないでよ、土溢れるから」
「へいへい」
お互い引っ越し先も決まり、私は退去日の1週間前に車を持ってる黒尾に頼んで荷物を運んでもらった。
家具と家電は2人割り勘で揃えたから結構悩んだ。
でもお互いにどうぞどうぞ状態で埒があかなかったから、公平にジャンケンで勝った方が持って行きたい物を持っていくという事でまとまった。
車に乗り込んで、私が次に住む事になる賃貸のアパートへ向かう。
物件探しの時、正直かなり自分と葛藤してた。
臣が次にどこへ住むのかは知らないけど、きっとまた公共交通機関を使わずに済む地区に決めるに違いない。
多分、今まだ住んでる部屋とあまり距離は離れないと思う。
そこまで分かってるから、揺らいでしまった。
「結構離れたとこに住むんだな、職場まで片道30分はかかんじゃねーの⁇」
「それでいいんだよ」
「ふうん」
私達は別れた。離れる。これからお互い新しい生活を送るんだ。
中途半端な事はしない。
「…お前らが決めた事だから俺は何も言わねえ」
前を向いたまま車を運転する黒尾の声が優しい。
3日前引越しの手伝いをお願いした時、黒尾は少し驚いて、でもすぐに真面目な顔をして「おう、任しなさいよ」と私の頭を撫でてくれた。
察しのいいこの人にはいつも助けられたな。
「お前がうちに就職してからついこないだまで、佐久早クンとの痴話喧嘩の愚痴やら相談やら、たまに惚気もまあ、沢山聞かされて大変だったけどさ」
ですよね、何かある度に黒尾には相談相手兼愚痴を聞いてもらう相手になってもらってた。
高校時代でいう小森君みたいな。ごめんね。
黒尾を見ればまるで思い出話をするみたいに優しく微笑んでいる。
「……案外好きだったよ。お前らも、お前らの話を聞くのも」
「………うん、」
「はっはっは、何泣いてんだよ! ほらそこ、ティッシュ入ってるから」
泣き虫になったと思う。
ここ最近、泣いてばかりだ。
なかなか泣き止まない私に「仕方ねえなー」と言って一旦コンビニに車を止めてアイスを買ってきてくれた。でも、
「え‼⁇ なんで‼⁇」
これ好きなんでしょ、と渡されたのはあのチョコミントのアイスで、余計に泣けた。
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作者名：林檎 | 作成日時：2020年7月17日 0時
