第二話 ページ3
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何を言えば、何から話そう。
覚悟を決めた筈なのに、いざ本人を目の前にしたら頭の中はごちゃごちゃしてしまった。
侑君と別れた事から⁇ いやその前に謝る⁇ でも何に⁇ 臣の本当の優しさに私は気付いていなかった、臣の気持ちを疑っていた事⁇
沈黙に耐えられなくなったのか、臣が先に口を開いた。
苛立った様な、でも弱々しい口調で、私を少しも見ないで言った。
「こんな所居ていいの、宮と付き合ってんのに」
落ち着かないのか、自分のコーヒーが入っているマグカップの取っ手をいじってる。
「良かったな、お前はうんざりする様な俺と別れられてあいつと付き合ったんだから。もしかして結婚するって報告しに来たとか⁇ それならおめでとう。俺には関係ないけど」
なんでそんな事言うの。
もしそうだよって私が1つでも肯定したらどんな反応するのよ。
良かったななんて、おめでとうなんて1ミリも思ってない様な顔してるくせに。
「選ぶ人間合ってると思うよ。俺には宮みたいにお前を笑わせらんないし、分かってやれないし、ほんと、良かったな」
ただただ自分を否定する言い方。
自分で言った言葉に傷ついている様だった。
「そんなことない」そう言う前に、臣がまた言葉を紡ぐ。
「俺は…」
今度は、私に話しかける風でもなく、独り言の様に。
「俺はお前が出て行ってから、寝れない夜が増えた」
月の明かりで薄っすらと分かる臣の表情は、とても苦しそうだ。
何もかも諦めた様にも見える。
「何度も忘れようとした。なのにたった1日ですら忘れられなかった。もうどうしたらお前を忘れられるのか俺には分からねえ」
忘れてなかったの。
そんな事、ここに帰ってくるまで考えもしなかった。
もしかしたら、少しはチャンスあるんじゃないかなってくらいにしか思っていなかった。
もう私の事なんて忘れて、バレーに専念して、新しい生活を送ってるって思っていた。
「忘れなくていいよ」
「…自分が何言ってるか分かってんの⁇ お前は俺の事忘れるって言っておきながら、俺には忘れるなって、なんだよそれ」
無神経な事を言ってしまった。
最後に臣と会った日、他の誰でもない私が臣の事を忘れるって言ったんだ。
慌てて謝ろうと口を開いた瞬間、薄暗くて気付かなかったものに気付いて言葉を飲んだ。
初めて見た。
臣が泣いてるところ。
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作者名:林檎 | 作成日時:2020年7月17日 0時