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Phase11 ページ13

中也は重力操作で弾丸を無効化しようとした──が、できなかった。するまでもなかったのだ。怪我のせいめ弾丸の狙いがそれ、中也の頭を通り過ぎた。


「あ……ご臨終する」

弾丸を目で追っていた零魔が男に向かってそんな言葉を吐く。まるで男の未来を視たように、弾丸は男の首に突き刺さった。

「かっ……」

驚きの叫びをあげることもできず、男は仰向けに倒れた。少し遅れて血液が散水機(スプリンクラー)から出た水のように噴出する。不運な事故──だが、戦場ではごくありふれた事態だ。

「……ちっ。云わんこっちゃねえ。
敵は片付いた。早く行くぞ」
「そう焦る必要もない。その蘭堂という男は恐らく何処かで待っている筈じゃ」

文也はそう返事をしたが、太宰と零魔は返事をしなかった。幽霊のようにふらふらと倒れた男の許へ近づき、少年はしゃがみ込み、少女は見下ろした。

「運がなかったねえ。苦しいかい?」
「その傷、助からない。苦しい」

態とらしく零魔が跳弾が刺さった喉元をさすれば、男は苦しそうな声にならない喘ぎ声を出す。顔には刻まれていないが彼女の雰囲気は何処か楽しそうだった。

「今から手当てしても、この子が言った通りこの傷では助からない。それでも死ぬまでに五分ほどかかるだろう。銃なんか使うべきじゃなかったんだ」

太宰は小さく首を振った。だが、やはりその顔には何処となく憧れのような輝きが、小さく揺らめいている。

「その五分は地獄の苦しみだ。僕なら耐えられないね。どうする? この銃で、苦しみを終わらせて欲しいかい?」

男は苦痛の中に喘いでいる。言葉を発しようとするが、なかなか声にならない。その様子を哀れだと感じた彼女はメモ帳とペンを取り出して彼の様子を事細かに記録し始めた。

「僕はマフィアのために仕事をしている。つまり君達の敵だ。でも君の死という貴重なものを見させてもらったし、僕としてはそのお礼がしたいんだ。さあ、お願いするなら、喋れなくなる前にしたほうがいい」

「……て……撃っ、てく……れ……」

「いいとも」と太宰は返事をしてから立ち上がり、銃の引き金を引いた。弾丸が頭部に命中し、それで男の体はただの物体になった。

目を背けたくなるような悍ましい光景を見ても尚、零魔は彼を記録していた。それが生き甲斐であるかのように。それが自分が存在していると感じる瞬間だというように。
彼女のその瞳に何が映っているのかは、誰も理解できないだろう。

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作者名:フェルマーとSasa猫 | 作者ホームページ:無し  
作成日時:2022年7月15日 20時

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