好きなんかじゃ ページ11
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結局、わたしの感情には名前を付けないまま、付き合い始めてひと月が経とうとしていた。
世間ではクリスマスに向けて空気が浮つき始めていて、ふわふわした空気の中では、少し羽を伸ばしたくもなるらしい。
クラスメイト達の話題はもっぱらクリスマスやそれにまつわる恋バナばかり。
彼氏持ち、という身分である以上避けては通れないそれに、わたしはだいぶ辟易していた。
「……彼氏持ち、ねぇ」
二人で帰りながら愚痴るわたしに、治くんがニヒルに笑う。
いまだに曖昧なわたしを責め立てるような笑みだった。
「ええ加減認めんか、はよ」
「わからんもん」
ほんとうは、もうわかりきっている。わからないなんて建前だ。口だけならどうとでも言えるから。
そんなわたしの本当の、嘘偽りのない感情。それを定義に当てはめて名前を付けることを、わたしは恐れている。
それだけなのだと、自分でも気づいていた。
もうすっかり冬になってしまったから、吐き出す空気は白い。
指先はじんわりと冷えているし、スカートから出ている足は肌寒い。
冷たい手を温めるように、差し出された手を握り返す。運動をした後だからか、治くんの手は温かい。
「おでん食いたいな」
「突然やなあ」
治くんが食べ物に目がないのは通常運転だ。
いつだって彼の頭の中には飯がある。食べに行こうか、と提案したら、二つ返事で了承。
わたしたちはバス停を通り過ぎて、少し先のコンビニに入る。
レジ前に置かれたおでんのいい香りに、わたしもおなかが空いてきた。
もともと部活後なのだ。文化部と言えど、腹が減るものは減る。
「なん食べる」
「とりあえず大根やな」
一番大きな容器を手に取った治くんが、器用に具をパックに入れていく。それを見守りながら、どれにしようかと言葉を交わす。
食べ物を前にした治くんは、いつもより少しだけ饒舌だ。
「からしセルフなんやて」
治くんがまとめて会計をしてくれたので、わたしは積まれたおでん容器のわきにある小さな箱からからしの袋を二つ取り出した。
袋を受け取った治くんの背中を追って、店を出る。
すかさず首筋を撫でる冷たい風に肩をすくめた。
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ひな(プロフ) - 満月さん» お返事遅くなってしまい申し訳ありません!ご注文お待ちしております(゚∀゚)師匠だなんて恐れ多いですが、宣伝していただく分にはぜんぜん構いません。私でよければ是非、、、 (2018年11月19日 14時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
満月 - ひなさん» 勿論!これからも応援し続けますよ!あっ、後…1つだけお願いがあって…私の作品に、このシリーズの宣伝と、linkを貼らせては貰えませんか?出来ればネッ友として…((( 訳:ひな様とネッ友的な人…?になりたい(?)です。と言うか、師匠として宣伝したいです! (2018年11月17日 2時) (レス) id: 62008578a5 (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 満月さん» それは大変失礼いたしました……アカウントが持てるようになった頃、それでもまだ欲しいと思っていて下さったら、その時はよろしくお願いします。こちらこそコメントいただけてとっても喜んでおります。これからも応援していただけたら嬉しいです! (2018年11月15日 22時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
満月 - 成る程…ご丁寧な、説明有り難う御座います!垢が必要なのですね…残念です(泣)実は私、DSから来ていて…スマホ持ってないし…小学校((卒業したら..中学に行ったら買ってくれるので…それまでの辛抱かな…DSにメアドと無いし((それと、ひなs…良い人ですね(感動…) (2018年11月14日 22時) (レス) id: 62008578a5 (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 満月さん» お支払いはクレジット決済かコンビニ・銀行での振り込みとなります。詳しくはpixivのboothの説明の方をご覧ください。それでもご不明な点ございましたら、またこちらかボードにお気軽にご連絡下さいね!お手数おかけしてしまい申し訳ありません(;;) (2018年11月13日 1時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひな | 作者ホームページ:https://twitter.com/pp__synd
作成日時:2018年9月14日 21時