疑問から鉛へ ページ20
怪我をした人達といっても、炊事当番中に軽く指を切っただとか、植物の棘が刺さったとか、すぐに処置をすれば問題無い怪我ばかりだった。しいて言えば
「大怪我という大怪我は跡部さんが蛇にかまれた事くらいしか」
木手「この合宿において大切なことは、いかに小さな傷を与える事です。」
「大きい怪我ではなくてですか？」
木手「えぇ。どんなに小さな傷でも、切迫した試合では命取りになる事もあるのです。」
間違えてはいないが、少し大げさすぎる所もあるのではないだろうか。
今小さな怪我をした所で全国大会には完治してしまっているものばかり。もし私が木手さんの言う理由で合宿を開くなら
「私だったら事故に見せかけて大怪我を負わしてしまうと思います。今小さな怪我をした所で大会には完治してしまいますし」
木手「彼のプライドだと思いますね。それに、この島にいるのは我々だけだと思ったら大間違いですよ。跡部君に伝えておいてください。我々は君の悪企みには決して屈さないと」
通り際に木手さんからひっそりと耳打ちをされる。
それは私の為を思っての事なのか、それ以外の理由なのか、私には分からなかった。
木手「貴方はただ跡部君の私利私欲の為に利用されているのですよ」
跡部「そうか、あいつらそんな事を言ってやがったのか」
あの後私は跡部さんに木手さん達の主張を伝えた。
伝えるや否や、複雑そうな顔を浮かべ、一際大きなため息を吐いていた。
最後に耳打ちで言われた言葉を追及する気など私には無く、ただ黙って跡部さんが考えている姿を見つめていた。
跡部「四の五の言っている場合じゃなくなってきたな…」
「結局、本当の所はどうなんですか？跡部さん。」
跡部「あぁん？本当も何も、これはただの遭難だ。それ以上も以下もねぇ。」
「…そうですか」
私は部屋から出るべく静かに立ち上がる。
跡部さんが何か言っていたような気もするが、私の耳にはもう届いていなかった。
部屋からでた瞬間、張りつめていた緊張感が少しずつ消えていった…わけでもなく。
肥大化した疑問が不安へと変わり、それは自分の体を覆ってしまう程の鉛、緊張感へと変わっていく。
――これはただの遭難だ。それ以上も以下もねぇ――
では、なぜ目を見て話さないんですか。
目を伏せ、歪な笑みすらも浮かべられていない跡部さんの顔が浮かぶ。
私が見た配管とカメラは何なんですか。
跡部さん。
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作者名：あぽろろろろろ | 作成日時：2021年11月6日 19時
