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その声はあの時死にかけていた私にかけてくれた声色では全くなかった。どこまでも冷たい絶対零度の声。私はその声を聞いて、センラさんが私の上から退いても動くことができなかった。代わりに感じたのは体の芯から湧き上がる熱。
彼の甘やかな香水の匂いに混じった彼自身の体臭を、なぜか私の鼻は感じ取ったのだ。
それを意識した瞬間、私の中にある欲望が渦巻いた。
美味しそう、食べてしまいたい。と。
「なァんだ？恍惚って感じの顔しちゃって。」
うらた、と名乗った男性は吐息がかかるほど顔を近づけた。普段なら恥ずかしがって押し返していただろうが、今の私にはそれができない。脳内が靄がかったような……有り体に言えば、判断能力が鈍ってしまったような。
「なんですうらたん。もうこの子に血ぃあげたんですか」
「俺からやったわけじゃねぇよ。ただコイツが勝手に飲みやがったんだ。」
拗ねたようなセンラさんに対してうらたさんは勝ち誇ったような表情をしている。ぼんやりとその会話を聞いていたが、この変な気持ちに気持ち悪くなって
「何が起きてんだって顔すんなよ、間抜け。お前は今吸血鬼だって事は聞いたろ？吸血鬼は一度吸った相手が魅力的に見えちまうんだよ。まぁ簡単に言えば、好きになっちゃうってとこ？」
「…………す、き……？」
「判断力が鈍ってやがンな。しかたねぇ大サービスだ。」
「俺もこの子に好きになって欲しいんやけどぉ」
「お前は体内に血取り戻してから言いな」
「ほら、飲めるか？」そう言って腕を差し出してくるうらたさんだったが、あいにく私は何も考えられないでいた。見かねたうらたさんは腕を引くと、面倒くさそうにため息を吐いた。そして、彼の吐息が唇を擽った瞬間だった。
「ん、ぅ……！？」
彼の厭に赤い舌が私の唇を割って、口内に侵入してきたのだ。そのまま彼の舌は歯茎をなぞり、上顎をくすぐってから一度引っ込まれた。そしてもう一度入ってきた時には、とろりとした液体が舌と一緒に流れ込んできた。
「……んっ……？ぁ……う……？」
「飲め」
短く命令されて、何がなんだか分からない私は素直にそれに従う。こくりと甘ったるいそれを喉に流し込み、こくこくと音を立てた。
しばらくされるがままにキスを甘受していたが、だんだんぼやけていた意識がはっきりしてきた。
待って、私今、何されてるって……！？
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作者名：くらげ。 | 作成日時：2021年11月5日 14時
