ゴースト・キャラメリカ【浦島坂田船】 (ページ14)

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センラさんはそう言って私を再び抱き上げた。さっき乱暴に落とした人と同一人物とは思えないくらい、割れ物を扱うかのような繊細な手つきで。
センラさんは長い廊下を歩き、そのままひとつの部屋の前にたどり着いた。それまでの間二人の間に言葉はなかったが、不思議と居心地の悪さは感じなかった。

「ここがAの部屋です。ほんとは俺の部屋に来て欲しかったんですが……なんせ年上の二人が嫉妬しますからね。寂しんぼですから」

「あのお二人にそんな雰囲気全くないですけどね……」

「まァ、あの二人にも色々あんねん。あの時計で7時頃にまた迎えに来ます。夕食はみんなで食べるってルールがあるんで」

それはまた、可愛らしいルールだ。私は頷いた。

「じゃ、大人しくしておくこと。どうせ逃げ出そうとするやろうけど、まぁ無駄やから早々に諦めた方が体力の節約になるで。Aは他のことに使わなあかんのやから」

「聞かなかったことにしますね……」

そう返すと、センラさんは口もとを隠して笑いながら部屋を出て行った。そうして静かになって、私はようやく室内を見渡す。
質素といえば質素だが、その調度品の一つ一つが上質であると見て取れる。天蓋付きのベッドなんて体を沈めたらさぞ気持ちいいだろう。
他に目立ったものといえば廊下にも生けられていたように花瓶がいくつか置いてあり、クローゼット開けるとドレスが何着か。デザインは古めで、世界史の教科書に載っていた貴族たちが着てそう、というのが素直な感想だった。

「……窓は開かない。えっ、ドアも」

どうやらセンラさんが出て行った後に外から鍵をかけられてしまったらしい。バスルームが備え付けられているので困ることはないが……やはり、この屋敷の出口くらいは確認しに行きたかった。

「……夕食まであと3時間」

とりあえず私は本棚に手を伸ばした。とりあえずこの世界について多少は知っておかないと、外に出た時に途方に暮れるだろう……