あなたの手を執る。 ページ1
暗い。
ぼんやりと浮かぶ小さな光を頼りに道無き道を進む。
どうしてこんなところにいるのかわからない。脳内を支配するのはただ感じたことのない喉の渇き。目の前が霞み、足にも力が入らない。途中で足が
家に帰りたい。早くお風呂に入って、体に纏わりつく泥とか蜘蛛の巣などの汚れを落としたい。この妙なほど強い渇きを潤したい。
そう思うのに一向にこの道の終わりが見えない。通い慣れた帰路ではないことは分かっているがいつの間にこんな暗闇に囚われたのだろう。記憶を辿ろうとするけれど奪われ尽くされた体力は考えることに使うことは脳が本能で拒否していた。
代わりに流れる脳の映像は、この十数年で経験してきた思い出たちだった。
走馬灯……確か、身体が命の危機を感じ取ったらこれまでの記憶の中から打開策を探すのだったか。
死がすぐそばまで迎えにきているのだ。
あぁ、最後くらい、幸せな夢を見たかった。もっと楽しいことをして、思い出を作って、最後まで満たされてから……
「大丈夫?」
突然、幽かな光に照らされた一つの救いの手が差し伸べられた。
爪に黒いネイルを施された、白いが逞しい男の人の手。
(あぁ、助かった……)
そう思った時、ガクンと膝から一気に力が抜け、ボロボロと涙が溢れた。やっと、やっと助かった。
朦朧とする意識の中、私は無意識のうちに知らない彼の手を執る。
「立てる？無理そうなら俺が運んであげるよ」
こちらの身を案じてくれる優しい言葉。それに対して私は……
彼の薬指の腹を、自らの犬歯で噛んでいた。
ゴースト・キャラメリカ
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作者名：くらげ。 | 作成日時：2021年11月5日 14時
