ゆめうつつ ページ4
Aの中にはA以外の声が存在している。
そのことに気づいたのは6歳のころだった。
実家には3人の姉がいて、Aは1番最後に生まれた。
厳格な家庭で行儀作法を叩き込まれ、何をするにも姉たちの一番後ろをいつもついて回った。
要領が良かったらしく、一斉に何かを始めると誰よりも早く覚えることができた。
はじめのうちは誰もがAを褒め、姉たちも頭をなでてくれたのを覚えている。
『姉さまみたいになりたいです。』
本心だった。
姉だけでなく【自分より先に生まれた人間は絶対で、敬うこと】
これが久遠の家が厳しく言い続けていたことだった。
下の者を服従させ、下剋上などという下卑た心を芽生えさせないためだ。
実際、家督相続が約束されている長女には誰も逆らうことはない。
長女自身に自信をつけさせ、主としての自覚を持つように躾けられている。
姉を称えなくてはならないと頭で理解はしていても
幼いAは褒められた時の嬉しさが忘れられなかった。
だから、姉たちに褒めてもらいたい一心で努力をする傍ら
時々、成功した姿を見せることに躊躇う時があった。
「あの子は私たちを馬鹿にしている」
「家督は
「母親殺し」
姉たちが自分の陰口を言っていると幼いながらに理解ができた。
悲しいとは思わなかった。
自分自身の行動が間違っていたのだと悔い、出来損ないを演じるようになった。
次第に姉だけでなく、周りの人間はAを出来損ない扱いし、ストレスのはけ口として接した。
手をあげられることもあったが、痛みは感じない。
どうやら痛みに鈍いらしい。
・
・
・
「お前はそれでいいのか」
ぶたれたり、わざと何かを間違えるような素振りをすると、誰かに声をかけられる。
声の主は見当たらず、呪いなど見たこともないAは正直気味が悪かった。
「鏡を見よ」
低く落ち着いた声で言われるがまま、自室の手鏡を持った時、自分の目を疑った。
鏡に映るのは正真正銘自分の顔だが、鏡の中の自分が勝手に口を開き話している。
『……』
「童のわりに、肝が据わっておるな。気に入った。」
実際は、驚きで声なんて出せなかっただけだが、鏡の中の自分は笑みを浮かべている。
これが、Aと声の出会い。
この時、声は多くを語らず、声の正体を知るのはもう少し先の話。
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おかだ - 読み応えあって好きです、更新楽しみにしています! (2021年3月1日 16時) (レス) id: 823cf7df74 (このIDを非表示/違反報告)
ゆず生姜 - うわぁぁぁぁぁどんな展開になるのか気になります!!更新頑張ってください!!楽しみに待ってます!! (2021年1月4日 20時) (レス) id: 36f1074087 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:安井 | 作成日時:2021年1月3日 20時