残されて ページ12
虎杖が去り、夕日は背中から滑り落ち山影に帰ろうとしていた
「悠仁にはあまり近づかないでね、面倒なことは勘弁してほしいし。」
『はい。』
「あと、もう少し愛想よくしないと後輩からも嫌われるよ。」
故意に落とした声音は、Aの耳にいつまでも残る。
『わかりました、失礼します。』
薄暗闇の中、冷たい足音だけが響いている
自身の部屋へ続く無機質な廊下で、ふと思考を巡らせた。
「お前の生きる場所、作ってやるよ」いつだったか五条に言われた言葉は幻聴だったのか
自分の記憶違いを疑うほどに辛辣になっていく彼に、Aは既視感を抱く。
『一姉様...』
齢を重ねるごとに歪んだ感情をぶつけられ、今や家族ではなく世話役のような扱いを受け続けている。
身体に痛みがあったとしても、姉に負の感情を向けることはない。
Aが何を思ったところで状況は変わらないのだ。
・
・
・
シャワーの湯が体を打ち付ける音だけが響く中、Aは考えていた。
おそらく二人は、遠からず婚姻関係を結ぶのだろう。
しかし、あの五条家の嫡男を婿入りさせるほどの権力は久遠にはない
決定権は五条悟に握られている。
五条悟の「Yes」は五条家の「Yes」だ。
熱烈な一姉様のアピールは、五条悟にどれほど届いているのだろうか、二人の関係は如何様なのか
Aが考えを及ぼすところではないと理解していてもあの「書状」の受け渡しを頼まれる度に考えてしまう。
『心と体の均衡がとれていない』
曇った鏡を手で拭い、濡れた肢体を見る。
映っているのはもうすぐ21歳を迎える女のもの以外の何物でもない。
バランスなんて、わからない。
こんなとき声なら何か助言してくれるのだろうか？
あるいは「先生」なら...
自分は出来損ないで欠陥だから、教えられたことしかできないのだ。
「先ほどからうるさいな」
声はすべてを聞いていることを忘れていた。
『今日だけで悩みがたくさん生まれてしまった。』
「ヒトは悩んでこそだろう、私はお前の師ではない。六眼にでも訊ねよ」
自分の声なのに意地の悪い言い方をされると、あまり気分のいいものではない。
考え事が多いと、処理が追い付かなくなって困る。
仕事に支障がでるならなおさらだ。
ぶんぶんと雑念を払うように頭を振り、身支度を済ませ早々に寝ることにした。
明日は月に一度の帰省日、また悩みが増える予感がする。
ラッキーアイテム
カラスの羽
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 14人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おかだ - 読み応えあって好きです、更新楽しみにしています！ (2021年3月1日 16時) (
レス) id: 823cf7df74 (このIDを非表示/違反報告)
ゆず生姜 - うわぁぁぁぁぁどんな展開になるのか気になります!!更新頑張ってください!!楽しみに待ってます!! (2021年1月4日 20時) (レス) id: 36f1074087 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：安井 | 作成日時：2021年1月3日 20時
