9話 ページ20
しばらくしたら、ニノはクスクス笑いながら顔を上げた。
｢長湯させたらのぼせるね。･････二人で話せる場所がなかったからさ、こんなとこまで入ってきちゃってごめんね。出来れば一緒に入りたかったけど｣
｢いいよ？｣
｢え？｣
｢目隠しして縄で縛っていいなら｣
｢溺れ死ぬじゃん！ おっさん同様、そっちもたまに黒くなってるからね？ ･･････そういうとこも好き、だった｣
唇の端でニヒルに笑うその笑顔が、私は単純にカッコイイと思った。
きっと、こんなニノに愛を告げられたいと願っている女の子は山のようにいる。ニノは一人にはならない。愛されて然るべき人間だから。
｢ありがと、ニノ｣
｢んじゃね｣
可愛いウインクを残して去って行ったニノを見送った後、私は勝手に流れて来る涙を隠すように湯舟に深く沈んだ。
胸が苦しくて、こぼれそうになる嗚咽を必死に堪えた。
私の不規則な呼吸に合わせて揺れるお湯。
熱いお湯なのに、頬を伝う涙の方が熱かった。
お風呂から出て、布団に入って暗闇の中でじっとしていたら、音もなく誰かが覆いかぶさってきたけど怖くなかった。
おーちゃんだってすぐにわかったから。
おーちゃんは私の顔のそばに両手を着くと、静かに唇を重ねてきた。
柔らかい唇。そこからあたたかな心が注ぎ込まれて来るのを感じた。
生きている。だから私たちは立ち止まれない。
失っても羽を休めた後は羽ばたかなければならない。
風を感じたなら。
神様みたいな口づけを残して出て行ったおーちゃん。
私は吸い込まれるように眠りの世界に誘われた。
翌日はみんなで遊園地に行って子供みたいにはしゃいで遊び、帰路につく車の中ではみんなで子供みたいにしりとりをしたりして楽しく過ごした。
夕方、アパートに戻った私はその足で店に行った。
少し離れていただけなのに、懐かしくなった。
カウンターを指でなぞったら、愛しさが湧いてきた。
不安や恐さはなかった。
深呼吸したら息が吸いやすくて、私は自然と頬を綻ばせた。
オープンまで3週間。
そこに、楽しみだと思える自分がいた。
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ao(プロフ) - ぐちこさん» ぐちこ様コメントありがとうございます〜。優しいお話は私の目指すところで、そこを感じ取ってくれて凄く嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします。頑張ります！ (2019年3月14日 8時) (
レス) id: a016946e50 (このIDを非表示/違反報告)
ぐちこ(プロフ) - こんばんは！お話をお見かけして、優しいお話に次々と読み進めてしまいました☆穏やかな主人公さんに、やさしいおーちゃん。また、主人公ちゃんを取り巻くやさしいいつメン☆温かな気持ちにさせてくれるお話をありがとうございます。これかも、楽しみにしています♪ (2019年3月13日 0時) (レス) id: d58eef616e (このIDを非表示/違反報告)
ao(プロフ) - kikiさん» kiki様こんにちはー。お仕事大変そうですね。ここで癒せるならばたくさん癒してくださいね。私も頑張ります。確かにみんないい男ですよね。たまには悪い男でも出してみようかな。結局5人以外の男になりそうですけど(笑)。 (2019年3月11日 9時) (レス) id: a016946e50 (このIDを非表示/違反報告)
kiki(プロフ) - ao様 年度末の忙しさに癒してもらっております。こんなできる男達は見たことありません(//∇//)言葉のチョイスが素敵です！ (2019年3月8日 20時) (レス) id: 53337431dc (このIDを非表示/違反報告)
ao(プロフ) - マコトさん» マコト様共感いただけて凄く嬉しいです。幸せです。ほんとに何度見ても飽きませんよね。見る度発見します重箱の隅をつつくように見てます。それでも感心するし飽きません。また是非遊びに来てくださいね〜！ (2019年3月7日 9時) (レス) id: a016946e50 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あお
| 作成日時：2019年2月23日 17時
