13 殺し文句 ページ13
松本君はかなりのジェントルマンだ。
昨日、キッチンの若い大学生が私のポニーテールに触れた時、さりげなく庇ってくれて、店長に大学生と帰りが同じにならないように取り計らってくれた。
正直助かった。その大学生には初日から言い寄られて困っていたのだ。
｢バイトは夏休みの間だけってマジで？｣
｢平日は小学生の妹がいるから遅くなりたくないんです｣
｢共働き？･･････いいねーちゃんしてるんだな｣
｢珍しくないでしょう？｣
私の言葉に松本君はびっくりした顔で私を見てきたけど、何か変なこと言った？
｢･････バイト、まじで続ければいいのに。優秀だし｣
｢私なんて松本君の足元にも及びませんよね。松本君は周りのことがよく見えてる。よく他のバイトを注意してるからたまに煙たがられてるけど、それはプロ意識持ってるからだし、その分自分にも厳しいし。プライド高いけど、それは松本君の長所だし。リーダーくらい、じゃなくて、自信持ってやっていいと思う。誰に何言われたって、いつかみんな必ず松本君に感謝するから｣
そろそろ休憩も終わりだなって立ち上がると、パシンって手首を掴まれた。
見下ろせば、松本君がじっとこちらを見上げている。熱の感じられる目で。
｢･･････なんで池谷はイメージ変えたんだ？前はどっちかっていえばチャラかっただろ？｣
･･････知らなかった。素敵女子はチャラく見えてたのか。
｢頑張る必要がなくなったの｣
｢男？｣
｢･････もう戻らないと｣
｢なぁ｣
松本君が立ち上がった。今度は私が見上げる格好に変わる。
｢俺ら付き合わねぇ？ 頑張らないお前が好きだ｣
なかなかの殺し文句だった。
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作者名：あお
| 作成日時：2018年3月19日 14時
