11 ナイフ ページ11
久し振りに笑ったせいで頬が痛い。
｢･･････なんだよ、笑えるじゃん｣
満足そう。
笑いをおさめた私は立ち上がった。
｢お邪魔しました。足、お大事に｣
黙って立ち去ろうとしたら軽い足取りで隣に並んで来る。
｢足、大丈夫なんですか？｣
｢信じてたの？｣
おどけて言う、二宮君。名札にそう書いてある。変な人。
｢でも本当でしょう？｣
言えば、目を丸くして。
一瞬だけ、二宮君の素が垣間見えた。
｢･･････またここに来る？｣
｢来ません｣
そうしたら、残念っ！ってあんまり残念そうじゃない声で言うから、変人はあなたですよねって言いたくなった。この人の本心はいったいどこにあるんだろう。
調子が狂う。
二人で階段を降りきったその先に。
突然表れた人。
目の前を横切っていく。
｢智君･････！｣
｢Aちゃん？｣
何の前触れもなかったから、思わず駆け寄りそうになって踏み止まる。
智君は私と二宮君を交互に見て、ふわっと笑った。
｢彼氏？｣
飛んできたナイフは確実に私の胸を刺し、血が流れはじめる。
智君は私の側を通りすぎ様、耳元でボソリと言った。
｢そいつ童貞じゃねーよ？ いいの？｣
智君が去った後、すぐに知らない女の子が智君の後を追って行った。
｢待ってよぉ、さとしぃ!｣
追いついて、智君の腕にしな垂れかかる。
智君はそれを避けなかった。笑ってる。
私は精一杯の力で踏ん張った。
智君が通り過ぎて、二宮君が顔を覗き込んできた。
｢なんだ、泣いてないの？泣いてると思ったのに｣
｢その資格は私にはないから｣
食いしばって、崖っぷちで踏み止まる。
その時二宮君の手が私の頭に触れようとした。多分、撫でてくれようとしたんだと思う。
でも私はそれを払った。
私には人に優しくされる資格もない。
二宮君を残して歩き出す。
止まったら、二度と歩けない気がしたから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 360人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あお
| 作成日時：2018年3月19日 14時
