48 ふいうち ページ48
｢･････結婚するって私言ったっけ｣
｢言ってない｣
きっぱり言ってにっこり笑う斗真のキラキラした笑顔を細い目で見つめ、無言で食事を続ける。
｢いやいやいや！ 別にね、結婚の挨拶しなくてもいいの。仲よくやってて、将来的には一緒になるかもしれないって、そういう話をね、したいわけ｣
｢つまり結婚の挨拶だよね？｣
｢違うよ。その前段の話だから。車で行こうか。そろそろ紅葉も綺麗だし、途中で紅葉狩りでもしながらさ。楽しみだな。Aは銀杏と楓ならどっちが好き？｣
･･････さすがやり手の営業マン。口を挟む隙がない。
私はフォークを置いた。
｢斗真、私ね？｣
｢ストップ！ ･･････俺を泣かせる話をする気なら、この世で一番高いティッシュを用意してからにしてくれ｣
｢斗真･････。もう、あなたって｣
堪らず苦笑してしまう。
｢･･････笑った｣
しみじみと嬉しそうな声を出す斗真を見て、自分の煮え切らない態度が彼を傷つけていることに、胸が痛んだ。
斗真のことは好きだ。きっとこのまま結婚すれば穏やかな結婚生活を送ることができることが想像できる。
でも、ここでまとまってしまっていいのかわからない。何かが私を踏み止まらせる。
｢･･････もう絶対裏切らないって約束するよ｣
｢外でする話じゃないわ。･････うん、それはちゃんと分かってるよ｣
斗真の私に対する気持ちがちゃんと熱いことは伝わって来る。
｢ただね、斗真･･････｣
言いかけた時だった。
私達の席のそばに誰かが立つ気配に気づき、顔を上げた時、同時に私に冷たいものがかかった。
一瞬何が起こったのか分からなかった。
ボトボトと前髪から雫が垂れて落ちるのと、斗真が驚いた顔で立ち上がって誰かを見ているのが見えて、現実に戻っていく。
コップの水を掛けられていて、掛けたのは、斗真が腕を掴んでいる女の子。
直感的に分かった。
斗真が地元の同窓会で一緒にいた女の子に違いない。
まっすぐな私の髪とは違い、柔らかなウエーブのかかった、少しふくよかな、体つきも柔らかそうな子で、情熱的な瞳が、いかに斗真のことが好きかを物語っていた。
｢あなたが生田君の彼女？｣
敵意剥き出しだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 775人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ao(プロフ) - ねこっぱちさん» ねこっぱち様。レス遅くなってしまいました。失礼しました。コメントありがとうございます。今も読んで下さってますでしょうか。社長編起きに召しました？私もここの事務員なりたいです！これからもよろしくお願いいたします。 (2018年8月2日 15時) (
レス) id: e96312c6a0 (このIDを非表示/違反報告)
ねこっぱち(プロフ) - お気に入り1番目Σ(ﾟ艸ﾟ〃)思わずコメントしてしまいました！いつも楽しく読ませて頂いてます。この代理店事務員もう1人雇ってくれないかしら〜♪ (2018年7月13日 14時) (レス) id: 8896252b64 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あお
| 作成日時：2018年7月11日 5時
