帽子の歌声 ページ38
新入生はそのまま、教師陣が座っている上座の前まで行き、くるりと反対を向いて先輩方の方を向いた。
マクゴナガル教授は、全員がまっすぐに、だが不安そうに目線をうろうろさせているのを確認すると、今度は、小さな椅子を取り出し、その上に帽子を置いた。
とても古めかしい物だった。古めかしすぎて、汚い。
しかし、今までざわざわとしていた先輩方も、教師たちも、なぜかその古い帽子に注目した。そのおかげで、この帽子がただの、ゴミ収集車に乗り遅れてざっと５０年ほどたったものではない、とAは理解した。
水打つような静寂。誰もが息をのむことでさえも、遠慮しているような空気が漂った。
そして、ピクピク動いた。その古めかしい帽子が。
帽子のつばのへりの破れ目が、まるで口の様に動き、音を出す。それは、確かに声で、歌だった。
私はきれいじゃないけれど
人は見かけによらぬもの
私をしのぐ賢い帽子
あるなら私は身を引こう
山高帽は真っ黒だ
シルクハットはすらりと高い
私はホグワーツ組み分け帽子
私は彼らの上をいく
君の頭に隠れたものを
組み分け帽子はお見通し
かぶれば君に教えよう
君が行くべき寮の名を
グリフィンドールに行くならば
勇気ある者が住まう寮
勇猛果敢な騎士道で
他とは違うグリフィンドール
ハッフルパフに行くならば
君は正しく忠実で
忍耐強く真実で
苦労を苦労と思わない
古き畏きレイブンクロー
君に意欲があるのならば
機知と学びの友人を
ここで必ず得るだろう
スリザリンはもしかして
君はまことの友を得る
どんな手段を使っても
目的遂げる狡猾さ
かぶってごらん! 恐れずに!
興奮せずに、お任せを!
君を私の手にゆだね私に手なんかないけれど
だって私は考える帽子!
帽子は歌い終わると、先輩方が座っている四つのテーブルにペコリ、ペコリ、ペコリ、ペコリとお辞儀をした。四つのテーブルそれぞれから、そして後ろの上座から大きな拍手が聞こえる。
Aを含む少数の新入生が慌てて、小さく拍手をした。
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作者名：蒼使ヰ | 作成日時：2020年4月25日 18時
