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217_ 君の腕の中 ページ38

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今までで一番緊張していた。


どんな顔をして会いに行こう。

会ったらまず、何から伝えよう。

どんな言葉で、伝えよう。




卒業式から一ヶ月が経ち、
まだ肌寒かったはずの風は、少しずつ温もりを連れてきている。


一歩一歩が重たくて、それでも早くあの場所に辿り着きたくて。






二年ぶりに会える、という気持ちと。

去年のことを思うと罪悪感もあって、
もし流星が来ていなかったら、って不安が渦を巻いている。




殆ど走るかのような足取りで丘の下に辿り着く。

人気のないそこで、私の坂を踏みしめる足音だけが響いた。



少しずつ天辺に近付くにつれて息が上がっていくのは、
歩き疲れたからなんかじゃないと思う。


胸がどくん、と音を立てているのが分かって、肩で息をする。







視界が一気に拓けると、
桜と、蒼い空に浮かぶ月と、まばらな街の光と、
そして愛おしいシルエット。






「流星」




私が先に名前を呼んだら、
流星は今まで見た事がないくらい柔らかい表情で笑ったのが、
薄暗い闇の中でもはっきりと見えた。




立ち止まってしまった体を動かして、
私は流星にそっと近付くと、流星は黙って受け止めてくれた。


流星の腕の中。

この温もりが、やっぱり私には必要だ。





「来てくれる気がしてた」



そう言って私を抱き締める流星の胸に顔を埋めて、
「ごめんね」とくぐもった声で謝ると、
流星は「ええんよ」とだけ呟いて頭を撫でてくれた。







顔を上げると、すぐ上に流星の顔。


綺麗な黒髪と、潤んだ瞳と。







「流星、好き」




やっと伝えられた。


伝えたかった、ごめんねと、好きを。










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しょーゆ(プロフ) - みなみさん» かしこまりました! (6月22日 17時) (レス) id: 474224f74f (このIDを非表示/違反報告)
みなみ(プロフ) - しょーゆさん» 新作ではありませんが、前に作って更新停止していたお話を今二つ連載中ですのでもしよかったら覗いてみてください!もちろん大歓迎です!ありがとうございます! (6月22日 11時) (レス) id: b2af61b783 (このIDを非表示/違反報告)
しょーゆ(プロフ) - みなみさん» 次回作も首を長くして待ってます!お気に入り作者さんに登録してもよいですか? (6月22日 11時) (レス) id: 474224f74f (このIDを非表示/違反報告)
みなみ(プロフ) - しょーゆさん» コメントありがとうございます!私の作品で泣いていただけるなんて、こんなに嬉しいことはないです。こちらこそありがとうございます☺︎ (6月22日 9時) (レス) id: b2af61b783 (このIDを非表示/違反報告)
しょーゆ(プロフ) - 久しぶりに大号泣しました。感動作をありがとうございます‼︎ (6月22日 2時) (レス) @page45 id: 474224f74f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みなみ | 作成日時:2023年5月30日 19時

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