あなたの形へ ページ6
あなたの心はどこにありますか?
胸? 頭? 体全部が心だと思う人もいるかもしれません。
誰にも信じてもらえなかったけれど、私はみんなの心がどこにあるのか知っています。みんなの心がどんな色をしているのか、私はずっと前から知っていたのです。
私が「それ」を認識したのは視界がはっきりしてきたばかりで、まだ発音一つ覚束なかった頃でした。母親の手のひらに、白くて、少し藍色がかったふわふわしたものが見えました。とても温かいふわふわで、私はそれに触れるのが大好きでした。父親は、頭に水色のキューブのような形がありました。冷たくて、でも何となく愛おしいような気がしていました。
私の見えているそれが他人に見えていないと知ったのは、小学校に行き、初めて同じ年齢の友達とおしゃべりをした時でした。初めのころの私は、周囲から見ればひどく気味が悪かったに違いありません、特に担任の先生には悪いことをしました。四月の学校が始まって間もないころ、私は先生に尋ねました。
「先生は喉。でも、悲しい?」
先生の困った顔を今でも覚えています。伝わらなかったかしらと言葉を探していると、先生は喉をとっても悲しそうな色にして言いました。
「いいえ、先生は先生になれてよかったわ。」
私は嘘だと思いました。先生の喉はちくちくした形になって、それから卵のように閉じこもってしまったからです。
今なら私にもわかります。それは先生の本音だったのでしょう。今はまだ完全に割り切れていなくても、形には優しさがにじんでいました。
後から聞いた話なのですが、母親は獣医になりたかったそうです。実家が裕福ではなかったため諦めたそうですが。あの優しさにも頷けます。
父は大学の教授だった、としか知りません。私が物心ついたかどうか、という時期に他界しました。父の姿はあまり記憶にありませんが、父の形ははっきりくっきり覚えています。氷のように透き通ったキューブが、くるくる形を変えていく、あの様子が私は大好きでしたから。
担任の先生は……何だったのでしょう。聞く機会を逃してしまいましたが、声楽家か何かになりたかったのでしょうか。
あれは、夢の形で、きっと、心の形でした。
私は知っているのです
道を歩いているサラリーマンの指先に、小さな鍵盤が燻っていることも
テレビのアイドルの右手で、歩の駒が泣いていることも
私には何の色も形もないことも
私は全部知っているのです。
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作者名:蒼藍 Ai Aoi | 作成日時:2020年6月14日 0時