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ここにただひとり ページ37

ハァ、と肩で息をする。腰の水筒を手に取り蓋を開けて口をつけたが、大した量は出てこなかった。
 F91を逃してどの程度経ったのかわからない。背中を瓦礫に預けて大きく息を吐き出す。ほんの少しだけ残ったレーションのかけらを口に押し込んで唾液で喉奥に押し込む。ここしばらく飲まず食わずでまともに思考が回らない。
 ザリ、と近くで砂を踏む音がする。武器を握りしめると、動作に合わせて腰に吊るされた鈴がチリンと鳴った。
 これは合図だ。僕がいるという合図。この音と軍靴の音を軍兵は恐れる。“僕”が来たんだと畏れる。息を飲んだ音で位置や数が把握できた。
 踏み出し、敵軍の前に踊り出す。腰に刺したナイフを引き抜き地面を弾くように跳躍しながらすれ違いざまに敵兵の首を掻ききっていく。
 数度の鈍い音とともに、どお、と床に敵兵達が転がる。
 全員の絶命を確認して敵兵の荷物を漁り、水筒を奪い取って水を口に流し込んだ。水分補給ができた為少し余裕ができた。インカムの接続を確認するがノイズだけが走り、F91との連絡はとれそうにない。受信だけでもできれば御の字だろう。ノイズが耳障りだが僕は電源を入れたままにした。息を吐き出した僕の手はほんの少し脱力して、手に持っていた水筒が地面に落ちる。
(僕はなんのために戦っているんだっけ)
 戦場に立つ理由なんてとっくになくなってしまった。
 いや、もう理由はあるんだ。僕の元生徒達。どんな恐怖や絶望があっても、僕は決して折れてはならない。あの子達を守る為に正に身を粉にして戦わねばならない。
 そして僕の相棒(あくゆう)の為に。
(ああ、でも少し疲れた)
 たった独りで荒野に立ち続ける事。F91はうまく逃げられただろうか。それなら良いんだが。
 瞼を落とした僕の耳に聞き馴染んだ声達が聞こえる。ああ、いいんだよ。何も気にしないでくれ。キミ達に降りかかる物が少しでも軽くなるなら、僕は。
 再び砂を踏む音が聞こえた。敵兵か。柄を握れば合わせて鈴が鳴る。
 恐怖せよ。畏れよ。それがお前達の最後だ。
 足音は壁の向こう側から滞る事なくこちらへと走り込んでくる。向こうも僕を探していたらしい。迎撃するべく僕は腰を落とす。そうして現れようとした姿にナイフを引き抜き、あと少しで首を跳ねるすんでの所で僕は手を止めた。
 知った顔が、そこにいた。
 驚愕に目を開き、しかし安堵の表情で僕を見つめた赤い目が僕をまっすぐ捉えていた。
「…あろま?」

行進→←なにがあっても ※F9



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長閑(プロフ) - 代口さん» 初めまして、コメントありがとうございます!当作品を読んでいただきありがとうございます。楽しんでいただけて嬉しいです!趣味詰め詰め小説ですが今後もゆっくり更新していきます。よろしくお願いします〜! (2022年8月9日 1時) (レス) id: 4a86d0b1da (このIDを非表示/違反報告)
代口 - 初めまして、コメント失礼します。話に引き込まれて最後まで読んでしまいました、とても素敵な作品と出会えて良かったです。今後の更新も楽しみにしています。 (2022年8月5日 6時) (レス) id: fb96c304db (このIDを非表示/違反報告)
長閑(プロフ) - 陵さん» コメントありがとうございます。楽しんでいただけて嬉しいです!お話は短編の方にその後の話としてあげようと考えていますのでしばしお待ち下さい!読んでくださりありがとうございました!ゆっくりですが今後も更新していきます。よろしくお願いしますー! (2022年5月3日 1時) (レス) id: 4a86d0b1da (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼します!完結おめでとうございます!!とても素敵な作品に出会えて幸せです、、!5人のお話や脳筋ぶち破り話(?)も楽しみにしています!! (2022年5月2日 2時) (レス) @page50 id: ef30949f28 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:長閑 | 作成日時:2020年1月26日 3時

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