この微妙な距離感 ※Ａ ページ7
ホッカホカの風呂に温められて、ホッと一息。用意されていたスウェットに着替え、部屋に戻ったらこの始末。
「……な、何が、泊まってていいスよ、だよ……」
死ぬわ、と零しながら俺は近場のソファに腰掛けた。高価ではないのだろうが、それなりに良質なソファはふかっと俺の体重を受けて軽く沈み込み、緩やかな反発で押し上げようともする。座り心地の良いソファの背もたれに背を預けて、俺はタオルで顔を覆った。
「……マジかよ……」
何考えてるんだ、アイツ。何がしたいのかさっぱりだ。
(普通、仮にも恋人の扱いのヤツを軽率に家に泊めるか？ 大体連れてくるのも中々アイツ考えがわかんねぇな)
たぶん、虎渓の感じからして何も考えてないんだろう。ただ単に、あのまま濡れて返すよりは、自分の自宅が近いのだからという、簡単な善意からだろうな、と、それなりに関わりを持った俺は思える。
(しかしこのテクで何人落とされたのかね)
絶対に勘違いする女はいたと思うが。だがしかし、あの虎渓だ。絶対何の気なしにフってきたんだろうな。本人にそういうつもりなく。
(……そういうとこだぞ虎渓……)
ハァ、とため息を吐き出し、それからぐるっとリビングに視線を巡らせた。
壁にはいくつかのコルクボードが止められていて、あちこちに写真がはられている。写真の建物や風景に統一感はなく、今後の企画やいままでの企画で使ったものだろうと推測できた。小さな本棚の中は特集やデザイン系の本、会社の資料であろうバインダーがぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、結構勉強熱心なのだと意外な側面を覗かせる。デスクに置かれたディスプレイの縁には大小様々な付箋がはられ、赤、黒、青と様々な色合いのペンで何やら予定と思しき内容が書かれているようで、これまた、仕事に対する真面目な側面を覗いたような気分になった。
「…そういや、」
数日前に渡したひまわりはどうなったんだろうか。置くところはないと言っていた、招く予定はなかっただろうし、捨てただろうか。リビングを見る限りでは見つけることはできず、しかし腰を上げる気にもならず、俺はただ“ない”という事実を理解するだけだった。
この微妙な距離感 - ２ ※Ａ→←本日は曇のち雨、らしい - ６
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
長閑(プロフ) - PONKANさん» コメントありがとうございます！今作は特に表現に気を使って書いているつもりなので、そう言って頂けて嬉しいです(*´ω｀)読んで下さってありがとうございます。ゆっくりですが今後も更新していきますので、どうぞ気長によろしくお願いしますー！ (2019年2月12日 0時) (
レス) id: 90c3880b48 (このIDを非表示/違反報告)
PONKAN(プロフ) - 唐突に失礼します…好きです……表現の仕方とかめっちゃ尊いです……正直一生読んでたいくらいです……応援してます……！ (2019年2月11日 23時) (レス) id: b094142359 (このIDを非表示/違反報告)
長閑(プロフ) - 魔塩さん» 読んでくださってありがとうございます！面白いと言っていただけて嬉しいです。今後もゆっくりですが更新していきますので、どうぞよろしくお願いいたします！コメントありがとうございます！ (2019年1月8日 21時) (レス) id: 90c3880b48 (このIDを非表示/違反報告)
魔塩(プロフ) - 更新お疲れ様です！MSSPの軍パロから長閑さんの小説を知り、ファンになりました。今回の作品も面白くて読むのが楽しいです。応援してます！ (2019年1月8日 1時) (レス) id: ac83d9c582 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：長閑 | 作成日時：2018年11月16日 2時
