愛を語るためのオーバーチュア - ３ ページ38
冷静にそう言ってくれるあろまさんだが、むしろ俺は自分の事で手一杯だったからさっきのさっきまでその事実に気づいてなかったんだあろまさん。気づいてくれ。その事実に。
「い、いや…俺も今の今まで気づいてなかったんで…いっス、ホント…」
「……これ俺もマジで恥ずかしいわ」
「…はは…俺もスわ」
妙な気恥ずかしさがお互いの間に流れる。そりゃそうだ。前提条件から違ったら食い違うのは当たり前。ただ、それを加味しても治す必要のある要因はいくらでもある理由だが。
「……好きって、さ」
ふと、あろまさんが口を開いた。
「そんな簡単じゃねぇけど、難しい事でもねぇからさ。…俺も、お前に何してやれるかとか、よく分かんねぇけどさ。ただ、好きだから一緒にいたいとかそんなちっちゃい事だぜ。好きな事知ってほしいとか…ネガティブな？ マイナスな？ …事も、ちょっとずつ、共有したいっていうか」
机に片肘をつき、視線は窓の外に投げられる。それから視線が机をなぞって、俺に向けられる。薄い照明の下で、前髪の奥で、その眼が揺れる。唇が開かれる。
「…だから、なんつーか…、お互いちょっとずつやっていこうぜ」
たぷん、水盆の水がちゃぷと波打つ様な。
「本当、歩幅合わせてく感じでさ。よく分かんなくなったら、こうやって話し合って」
ほろり、口の中でほろろと崩れるお菓子の様な。
「こういう面以外じゃ、俺ら結構お似合いだと思うんだよな」
ニカリと笑った彼の目元が、少し赤らんで見えた。
「……そう、スね。そうしましょう」
そんな彼に、俺もやんわりと笑ってみせる。
「虎渓。……好きだ」
少し考えた顔をしていたあろまさんが、唐突にそう告げる。彼の表情が緩んで、口角があがる。
「期間云々とか言ってたけどよ。それ抜きで」
「あ、…あろまさん？」
「…今度は、ちゃんと言う。…俺と、付き合ってほしい」
真摯でまっすぐな眼が俺を捉える。柔らかい笑みが俺に向けられる。机に置いていた手が、優しく掴まれる。
「……ハイ。よろしくおねがいします」
頷く。そうして二人で顔を見合わせて笑った。
窓の外は夜の街だ。あの夜と同じ。けれどもう沈む様な感覚はない。
これから先は本当に足並みを揃え俺達は歩いていくのだ。
時に心を語りながら、時に愛を語りながら。
街の喧騒が聞こえる。車の音が聞こえる。人のざわめきが聞こえる。
その歩みという物語を始める為の、さながら序曲のようだった。
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長閑(プロフ) - PONKANさん» コメントありがとうございます！今作は特に表現に気を使って書いているつもりなので、そう言って頂けて嬉しいです(*´ω｀)読んで下さってありがとうございます。ゆっくりですが今後も更新していきますので、どうぞ気長によろしくお願いしますー！ (2019年2月12日 0時) (
レス) id: 90c3880b48 (このIDを非表示/違反報告)
PONKAN(プロフ) - 唐突に失礼します…好きです……表現の仕方とかめっちゃ尊いです……正直一生読んでたいくらいです……応援してます……！ (2019年2月11日 23時) (レス) id: b094142359 (このIDを非表示/違反報告)
長閑(プロフ) - 魔塩さん» 読んでくださってありがとうございます！面白いと言っていただけて嬉しいです。今後もゆっくりですが更新していきますので、どうぞよろしくお願いいたします！コメントありがとうございます！ (2019年1月8日 21時) (レス) id: 90c3880b48 (このIDを非表示/違反報告)
魔塩(プロフ) - 更新お疲れ様です！MSSPの軍パロから長閑さんの小説を知り、ファンになりました。今回の作品も面白くて読むのが楽しいです。応援してます！ (2019年1月8日 1時) (レス) id: ac83d9c582 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：長閑 | 作成日時：2018年11月16日 2時
