【ＭＳＳＰ】この愛の音を聞いて【男主】

愛を語るためのオーバーチュア - ２ ページ37

「別に、お前になんか返してほしくて一緒にいるんじゃねぇんだよ」
　真っ先に言われた言葉は、それだった。
「なにもない？ 上等だ。俺だって胸張って言える程出来た人間じゃねぇんだよ。そういうもんだろ。お前な完璧人間にでもなりたいのかよ？」
　ふるりと頭を振る。そうだろ、とあろまさんの少し和らいだ声が鼓膜を揺らす。ポンと頭に乗せられた手が、先程とは打って変わってゆっくりと、優しく髪をかき混ぜる。
「できる限り好きでいてほしいだ？ んなの俺も一緒だっての。他人にむざむざ嫌われたいヤツなんかいないっての。でもそういう所も腹割って話せる様になりたいって言ってんの」
「…で、…でも、仮期間でそんな踏み込んでもって思うし、厚意でってか、善意で期間設けてくれたあろまさんに、そこまで重いの見せてもって思うじゃないスか…」
「……あのなぁ、流石に俺も善意でこんな付き合いするかよ。俺だってお前が好きだから、でもお前が曖昧っぽそうだったから、なんなら期間設けて付き合おうぜって言ったんだろ。…大体そんな反応されたら好きって言った俺は何なん……」
　そこでピタリとあろまさんが止まった。
　俺もピタリと止まった。
「……俺、言ってなくね？」
「……俺、言われてなくね？」
　そうだ。言われてない。
　言ったのは俺だけで、あの時のあろまさんは、確かに諦められるのは困るとは言っていたけど、それ以外は探り期間だ、諦めるって訳じゃないならそれで終わってほしくないと言っていたくらいで、それ以上は…
「……悪ぃ、虎渓。お前のこと好きだわ。だから期間設けたし腹割って話せる様になろうぜって言った」
「仕切り直しが早ぇよ〜〜〜！！ あろまさんそういう所だぞ！！」
　悪かったっての、とバツが悪そうにあろまさんが頭を掻く。
　このままじゃうるさくなるから、と部屋に引っ張り込まれ、リビングまで通された。
　あろまさんが座り、俺は向かいに座る。神妙な顔…というよりは、やっちまった、という顔をしてあろまさんが手を額に当てて若干項垂れる。
「……とりあえず状況整理だ」
　状況整理も何も、という雰囲気がお互いに流れていた。
　要因はいくらでもあれど、単純な前提条件の食い違い。それが根幹であり原因だ。
「……悪かった」
「い、いえ…それこそ俺も聞けよって話だったと思うんで…」
「…いや、伝えた気になってでかい顔してた俺のせいだろ。そりゃお前だって言わねぇよ」

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