夜に沈む - 5 ページ30
少しばかりの、牽制と、怒りが、滲む。これがお門違いだという事は自分でもわかっている。
それが本当にそうなら。
だけど、……ああ、だけど。
「……それは、ちょっとばかり心外なんスけど……俺は俺なりに気ぃ使ってるつもりだったんですけどね?」
「そりゃお前が勝手な想像で勝手にやってた事だろ。俺に実際どう思うのか、どう考えるのか、どう感じるのか、何か一つでも聞いたか? 聞いてないだろ。それで一体、俺の何に対して気を使ってるって言うんだよ」
ごぷり、と、肺腑の底で何かがうごめいた様に感じた。泥の様な黒い沼がどぷどぷ、ごぷごぷ。鈍く、重く、脈打つ様に波打っている。息が、音が、言葉が、喉のすぐそこまでせり上げた。
けれどそこまでだった。あと一歩で吐き出される筈だったそれはすんでの所で飲み込まれ、再度肺腑の底の底に、沈み込んだ。
「わかりましたよ。気をつけます。こういう事あんま気にしてなかったんで、次からちゃんと──」
「……わかってねぇだろ、お前」
音を遮り、吐き捨てられた音。静寂に吐かれた言葉は、ぴりぴりとして、重くて、痛い。音として認識され、鼓膜から入り、脳みその中を音と意味が暴れまわるようだった。
「わかってねぇよ。ただヒートアップするのが嫌で、続けるのが嫌で、そうやって物分り良いみたいに良い子ちゃんしてるだけだろ」
「んなこと…」
「ある。……お前さ、そうやって誰かと深い間柄になるの避けてきたんだな。面倒くさい事に巻き込みたくないとか言いながら、結局その後の関係とか付き合いとか考えて、自分が面倒くさがって入り込まない」
「…ンな事、無いっスよ…」
「じゃあなんだよ。結局、あの二人に言ったら大概冗談半分ネタ半分で終わるから言うんだろうが。そうやって全部逃げてきたんだろ」
「……否定は、しないですけど……」
「…けど、なんだよ」
その後に続ける言葉を、考えた。
言われてる事は、全部正しい。だからそれを否定する気はない。
俺は確かにあんたの事を好きだと思った。曖昧な勘違いにせよ、そう思っていた。
だけど、そう言うあんたは?
「……じゃあ、どうしろって言うんですか……」
「……自分で考えろ、バカ」
厚意でこの期間をくれた、あんたは?
あろまさんは、俺のこと、好きですか?
再度向こうを向いた彼に俺も背を向けて、夜に沈む様な錯覚に陥りながら、瞼を落とした。
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長閑(プロフ) - PONKANさん» コメントありがとうございます!今作は特に表現に気を使って書いているつもりなので、そう言って頂けて嬉しいです(*´ω`)読んで下さってありがとうございます。ゆっくりですが今後も更新していきますので、どうぞ気長によろしくお願いしますー! (2019年2月12日 0時) (レス) id: 90c3880b48 (このIDを非表示/違反報告)
PONKAN(プロフ) - 唐突に失礼します…好きです……表現の仕方とかめっちゃ尊いです……正直一生読んでたいくらいです……応援してます……! (2019年2月11日 23時) (レス) id: b094142359 (このIDを非表示/違反報告)
長閑(プロフ) - 魔塩さん» 読んでくださってありがとうございます!面白いと言っていただけて嬉しいです。今後もゆっくりですが更新していきますので、どうぞよろしくお願いいたします!コメントありがとうございます! (2019年1月8日 21時) (レス) id: 90c3880b48 (このIDを非表示/違反報告)
魔塩(プロフ) - 更新お疲れ様です!MSSPの軍パロから長閑さんの小説を知り、ファンになりました。今回の作品も面白くて読むのが楽しいです。応援してます! (2019年1月8日 1時) (レス) id: ac83d9c582 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長閑 | 作成日時:2018年11月16日 2時