ただしいあなた ページ35
.
息が一瞬詰まって、勢いよく起きた。自分のこめかみを撫でて、なんとも言えない気分に浸る。伝っているのは血ではなく汗。
ここが、現実だ。
仮眠室にある時計を見ると、まだ30分ほどしか経っていない。
分駐所の空き室を、仮眠室として使わせてもらっているため、志摩も伊吹もここにはいない。情けない姿を見られなくてよかったと思うと同時に、少し心細くも思う。なんて自分勝手だ。
もう眠れそうにないし、喉も乾いたから自分のデスクがある大部屋まで行くことにした。中途半端な睡眠に体が対応しきれずふらふら歩きながら、水の入ったコップを片手にソファに腰を下ろす。
音のしない空間で目を閉じれば、さっきの夢の内容がまるで一本の映画かのように流れ始めた。私は、どこで間違えたのだろうか。…駄目だわからない。
水を一気に飲み干して、コップを片付けてからもしばらくソファに座ったまま、頭で夢を辿る。結局、私はどうやったって彼を助けられない。微笑んだ血濡れの彼が、私に"生きろ"と言うシーンが再生されたところで、隣に誰かいることに気づく。
｢び、っくりした…え、いつからいたの？｣
｢ちょーっと前から。Aちゃんってば全然気づかないんだもん、俺もびっくり。｣
｢…ごめん、起こしちゃった？｣
｢んーん。たまたま起きただけ。｣
いつの間にか隣に可愛らしく笑う伊吹がいて、心臓が止まるかと思った。隣に座ったのに気づかないとなると、私は相当参っているらしい。静かに息を吐いて、伊吹を一瞥する。サングラスをかけていない伊吹は新鮮だ。
たまに、伊吹の視線を恐ろしく感じることがある。こういう勘が鋭いタイプは突然痛いところをついてくるものだ。志摩と伊吹は、タイプは違えど鋭い。そんな二人の間に挟まれて、ボロを出さないよう常に気を張っているのだ。かなりしんどい。
｢Aちゃんは、なんで志摩に話せないの？｣
本当に、勘弁してくれ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 380人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みず。(プロフ) - 樹さん» はじめまして！たくさんの嬉しいお言葉ありがとうございます…！励みになります！！ (2020年10月11日 17時) (
レス) id: 8c2fd9630e (このIDを非表示/違反報告)
樹 - はじめまして。菊の花に縋る、MIU夢の中でも一番に好きな作品です。初めから読み直しては毎回志摩さんと主人公さんの距離にきゅんとしています。評価の星が複数回押せないのがもどかしい！続き楽しみにしています。 (2020年10月11日 8時) (レス) id: c294f25bdb (このIDを非表示/違反報告)
みず。(プロフ) - リトルバードさん» はじめまして！とても嬉しいです…！ありがとうございます！！ (2020年10月6日 20時) (レス) id: 8c2fd9630e (このIDを非表示/違反報告)
リトルバード(プロフ) - みず。さん、はじめまして！主人公ちゃんと志摩さんの微妙な関係がすごく現れていて読んでてキュンキュンしました！更新楽しみにしています！ (2020年10月6日 18時) (レス) id: fd0b490cca (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：静 | 作成日時：2020年9月21日 23時
