愚か者たちに雨 ページ31
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たくさんの水滴が地面に打ち付けられる音から、それは始まった。
倉庫に充満する甘ったるい匂いに顔を顰め、口と鼻を覆う。
不思議な感覚だ。手を開いたり閉じたり、辺りを見回してみる。どうやら、今朝見たものとは違って自分の意識があり、自分で動くことのできる夢のようだ。
自分の視界に広がる光景は、あの日と全く同じで気味が悪い。唇が震える。
雨に濡れた重い体を引きずるように倉庫から出た。雨の匂いしかしない。あの倉庫の匂いは、犯人が売り捌いていた薬が原因だろう。出てきて正解だった。
ここまでは、あの日と同じ行動だ。そこでふと気づく。
────────今なら、彼を助けられるんじゃないか?
私はこの後、誰がどうなるかを知っている。
彼が撃たれる前に犯人をどうにかする、もしくは私が代わりに撃たれれば彼を助けられる。奴の銃に込められた残りの弾は一発のみ。彼にさえ当たらなければ、それでいい。
これは夢なのだ。
ここで彼を助けられたとしても、現実に戻れば彼はいない。彼を助けられなかった私だけがいる。
そうだとしても、私は彼を助けたい。
彼も、私も、この夢で───────
必死に足を動かす。まずは彼と合流しよう。耳元でノイズと雨音混じりに、彼の男性にしては少しだけ高い声がする。鼻の奥がツンと軋んだ。
「A2倉庫付近に犯人発見。俺が、」
「待ってくださいっ……一人は危険です、」
「A?」
「…奴は、拳銃を所持しています。一人で行くのは危険すぎます。隠れて待機していてください。すぐに合流しますから。」
「…わかった。」
走れ、走れ。その間にも雨は降り続けている。
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みず。(プロフ) - 樹さん» はじめまして!たくさんの嬉しいお言葉ありがとうございます…!励みになります!! (2020年10月11日 17時) (レス) id: 8c2fd9630e (このIDを非表示/違反報告)
樹 - はじめまして。菊の花に縋る、MIU夢の中でも一番に好きな作品です。初めから読み直しては毎回志摩さんと主人公さんの距離にきゅんとしています。評価の星が複数回押せないのがもどかしい!続き楽しみにしています。 (2020年10月11日 8時) (レス) id: c294f25bdb (このIDを非表示/違反報告)
みず。(プロフ) - リトルバードさん» はじめまして!とても嬉しいです…!ありがとうございます!! (2020年10月6日 20時) (レス) id: 8c2fd9630e (このIDを非表示/違反報告)
リトルバード(プロフ) - みず。さん、はじめまして!主人公ちゃんと志摩さんの微妙な関係がすごく現れていて読んでてキュンキュンしました!更新楽しみにしています! (2020年10月6日 18時) (レス) id: fd0b490cca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:静 | 作成日時:2020年9月21日 23時