菊の花に縋る

そこはやさしい奈落 ページ17

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｢………すいません、よく聞こえなかったのでもう一度言っていただいても？｣

｢だから、明後日からAは4機捜に異動になるから、荷物まとめておいてね。｣


信じたくないことは、何度聞いても信じられず、上手く飲み込めないまま詰まる。たった今それを、この身をもって実感した。

本部に顔を出してすぐ桔梗隊長に呼び止められ、朝の挨拶をして、それから突然話は飛躍する。明後日から？4機捜に異動？
"明後日から来なくていいから"、と言われるくらいの衝撃だ。どうして急に、そんなことになったんだ。


｢…随分と、急ですね。｣

｢元々私は狙ってたの。でも、1機捜も4機捜も私が隊長だし、異動しても何も変わらないと思ってたから、取り敢えず保留って形にしてた。｣

｢今回異動して、何か変わるようなことでもあるんですか？｣

｢……一週間前、男に発砲されて怪我したでしょう。｣

｢ああ、はい。…それが何か？｣

｢組む人がバラバラだとその場での連携がしづらくて、一週間前みたいに苦戦するんじゃないかって、志摩に言われたの。｣

｢…志摩が？｣


私を見て、一つ頷く隊長。志摩め、余計なことを言いやがったな。
"志摩は変なところで諦めが悪い"ということをすっかり忘れていた。あいつ、人のことを"頑固"呼ばわりして、納得したふりをしていただけか。
今度会ったら、あいつの財布が空になるまで飲んでやろうと心に決める。


｢私が特定の人と組まないことを許可したのは桔梗隊長ですよ。｣

｢…事情は知ってる。許可もした。｣

｢なら、｣

｢Aに特定の相棒がいないことが、犯人の逮捕が遅れて被害が出ることに繋がる可能性があるとわかった以上、許可は取り消すことになる。Aまで危険なら尚更。｣


桔梗隊長の言葉に、首が絞められるような息苦しさを感じる。
自分勝手で、警察官としての本来の目的を忘れていたのだ。国民の命が最優先に決まっている。それを、自分の事情で危険に晒していいわけがないのに。きつくきつく、手を握りしめる。

それでも、私は────────









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