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「……志摩?私もう帰るよ。手当て、ありがとね。」


そう言っても志摩は一向に手を離さないし、ぱったり話すのをやめた。何か言いたいのに言えない、そんな顔をして黙っている。
その様子に、私は椅子に座り直して彼からの言葉を待つ。志摩は数十秒程時間を置いて、口を開いた。


「俺がお前と組んでたら、怪我もさせなかった。もっと上手く、やれてたはずだ。」

「……何言ってんの、」


志摩は私の腕に巻かれた包帯を見つめる。
平然を装って返したが、内心酷く焦っていた。志摩の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。心配もいきすぎると、こうなるのか。珍しい。
同期として、心配してくれているのはわかってる。わかってるけど、胸がうるさいくらいに音を鳴らす。

私は誰とも組まない。これは志摩も知っていることだ。それを知っていて言っているのだから、タチが悪い。


「……今回のは偶然が重なりすぎただけだよ。仕方ない。たまたま重い仕事に当たったのが、たまたま後輩とで、犯人はたまたま銃を持ってた。」

「その偶然が何度も起こったら、Aはその度に危険な目に遭う。」

「今日はやけに過保護だねえ。お前は私のオカンか。」

「……心配なんだよ、お前が。」

「そういうとこがオカンなの、志摩ちゃん。」

「A、」

「……なあに」


茶化すように言っても、誤魔化されなかった。志摩の声は至って真剣で、本気で私を心配してくれてるのがわかる。それがわかるから、嫌だ。いつもより近い距離も、左腕に触れている少し冷えた手も、優しい言葉も。全部全部、勘違いさせるには十分で、嫌だ。


「前にも言ったけど、私は誰とも組まない。私の相棒はこれから先も存在しない。」

「……頑固、」

「過保護で心配性な志摩ちゃんには、言われたくないね。」


ちゃんとした相棒をつくれば、連携も分担も上手くいったと、志摩は言いたいのだろうけど私にそんな気は一切ない。

今度こそ立ち上がって出口へと足を進めれば、志摩の手は簡単にするりと抜け落ちる。無理に引き止めないのも、志摩の優しさだ。


「じゃあ帰るから。手当て、ありがとう。」

「…ああ。」

「おやすみ。」


分駐所から出て、深い深い溜息を吐いた。左腕に残る低い体温と煩い鼓動が、私に残されて中々消えてくれないでいる。
志摩の優しさは、心臓に悪い。









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そこはやさしい奈落→←ぬくもりの悪いこと



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みず。(プロフ) - 樹さん» はじめまして!たくさんの嬉しいお言葉ありがとうございます…!励みになります!! (2020年10月11日 17時) (レス) id: 8c2fd9630e (このIDを非表示/違反報告)
- はじめまして。菊の花に縋る、MIU夢の中でも一番に好きな作品です。初めから読み直しては毎回志摩さんと主人公さんの距離にきゅんとしています。評価の星が複数回押せないのがもどかしい!続き楽しみにしています。 (2020年10月11日 8時) (レス) id: c294f25bdb (このIDを非表示/違反報告)
みず。(プロフ) - リトルバードさん» はじめまして!とても嬉しいです…!ありがとうございます!! (2020年10月6日 20時) (レス) id: 8c2fd9630e (このIDを非表示/違反報告)
リトルバード(プロフ) - みず。さん、はじめまして!主人公ちゃんと志摩さんの微妙な関係がすごく現れていて読んでてキュンキュンしました!更新楽しみにしています! (2020年10月6日 18時) (レス) id: fd0b490cca (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2020年9月21日 23時

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