雨の巡るからだ ページ11
.
私は誰とも組まない。必要であれば一時的に、いつも違う人と機捜用車に乗る。桔梗隊長には少し無理を言って許可を得ているし、理解もしてもらってる。
今日、右隣でハンドルを握っているのはまだ若い後輩だ。人懐っこくて、伊吹によく似た笑顔の絶えない子。
他愛もない話をして、ほどよく沈黙が訪れる。心地いい空間には、雨の打ち付けられる音がBGMに丁度いい。既視感を覚えて頭痛がするが、このまま何事もなく一時間ほど経てばすぐに休める。もう少しの辛抱だ。
フロントガラスに纏わりつく水滴たちが街灯に照らされて眩しい。後輩が、何度目かの沈黙を破ろうとした時に、違う形でそれは破られた。
｢────────警視庁から各局。刃物を所持した男が男性を切りつけ、××駅から走って逃亡したと通報あり。格好はグレーの上下スウェットに、青のスニーカー。年齢は四十代前半。至急、確認願いたい。｣
｢Aさん、｣
｢駅なら近い。向かおうか。──────機捜103、向かいます。｣
嫌な一日の締め方だ、と思いながらも車内には緊張感が走る。後輩のハンドルを握る手は微かに震えていた。
まだ若い彼には、経験が足りていない。手が震えるのも、呼吸が乱れるのも仕方の無いことだ。誰だって、最初はそう。
｢君が傷つくような事態になる前に、私が止めるから安心して。｣
｢…っえ、｣
｢それとも、女と一緒だから不安なのかな。｣
｢……いえ、Aさんが一緒なら心強いです。｣
｢それなら良かった。｣
彼はハンドルを強く握り直して、左折する。
目を凝らして見た窓の外に、水溜まりを弾けさせながら駆ける青のスニーカーを見つけた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 380人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みず。(プロフ) - 樹さん» はじめまして！たくさんの嬉しいお言葉ありがとうございます…！励みになります！！ (2020年10月11日 17時) (
レス) id: 8c2fd9630e (このIDを非表示/違反報告)
樹 - はじめまして。菊の花に縋る、MIU夢の中でも一番に好きな作品です。初めから読み直しては毎回志摩さんと主人公さんの距離にきゅんとしています。評価の星が複数回押せないのがもどかしい！続き楽しみにしています。 (2020年10月11日 8時) (レス) id: c294f25bdb (このIDを非表示/違反報告)
みず。(プロフ) - リトルバードさん» はじめまして！とても嬉しいです…！ありがとうございます！！ (2020年10月6日 20時) (レス) id: 8c2fd9630e (このIDを非表示/違反報告)
リトルバード(プロフ) - みず。さん、はじめまして！主人公ちゃんと志摩さんの微妙な関係がすごく現れていて読んでてキュンキュンしました！更新楽しみにしています！ (2020年10月6日 18時) (レス) id: fd0b490cca (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：静 | 作成日時：2020年9月21日 23時
