泣かないで ページ16
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ボールが床に落ちる様子を目で追う。試合終了の笛の音が遠く聞こえて、ネットを挟んだ向こう側で喜ぶ選手たちを俺はただ茫然と見つめていた。
大事な試合だった。俺だけじゃなくて、チームの皆にとってもすごく大事な。
体育館から出ていくチームメイトたちの背中には、悔しさが滲んでいた。タオルを強く握りしめる。悔しくて悔しくて、行き場のない感情が俺の中でぐるぐると渦巻いた。
体育館を出て、チームメイトの後ろをとぼとぼ歩く。すると、どこからかすすり泣く声が微かに聞こえて足を止めた。
足音を立てずにゆっくり、声が聞こえた方に進む。なんとなく、そこに誰がいるかわかっていた。
電気もついていない、薄暗い非常階段を少し上がったところ。彼女はそこで、ひっそりと、息を潜めて泣いていた。
ぽろぽろと彼女の目から零れ落ちる涙に足は止まる。彼女は俺を一瞥してから、"ごめんなさい"と謝って乱雑に涙を拭った。止まらない涙を、いつまでもごしごし擦って、無理矢理止めようとする。
｢擦ったら痛くしちゃうよ。｣
俺はその手をやんわりと掴んでやめさせた。そうすれば、また涙が目から溢れて落ちていく。
座る彼女の目線に合わせるようにしゃがんで、そっと彼女の頭にタオルを被せた。
俺は、少し動揺していた。いつもの彼女からは想像できないような光景だったから。
マネージャーの彼女はいつも笑っていて、優しい言葉をかけてくれる。そんな彼女が泣いているところは見たことがないし、想像したこともなかった。
でも、彼女だって人間だ。泣かないなんてこと、ないんだ。
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作者名：午睡 | 作成日時：2020年9月16日 22時
