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結局何も話せずにその日の練習が終わった帰り際、向かいからAが歩いてきた。カバンや上着を持っていないため、まだ何かしら仕事が残っていて帰らないようだ。
声をかけない方が不自然だから、"お疲れ"と至って普通に話しかけた。Aも"お疲れ様です"と、お辞儀を返す。その姿も顔を上げた時の表情も、やっぱりいつもより悲しさが宿っていた。
そのまま横を通り過ぎていくAの揺れる髪が視界に入って、心臓を握られるような苦しさを感じた。
細い手首をやんわりと掴まえる。驚きながら振り返るAの顔にかかった髪を、指で優しくはらった。
｢髪、切ったんだ。｣
｢…はい、｣
｢似合ってるね。｣
｢あ、りがとうございます…｣
案外あっさり出た言葉は、本心だけどほとんどやけくそで。そんな顔させるやつを、Aの心から消したかった。折角可愛いのに、その髪が揺れる度誰かを思い出して悲しい表情になるなんて嫌だ。
｢…なんかあったの？今日ずっとそんな顔してる。｣
｢そんな顔、？｣
｢うん。…悲しそうな顔してるよ。｣
｢え、っと…それは、解決したと言いますか……｣
｢…解決？……したの？｣
"はい"と、照れくさそうに小さな声で返事をした。俺はどういうことかわからなくて、Aに向かって首を傾げる。
｢今、解決しました。｣
｢…えっ、今？？｣
｢はい。｣
こくりと、ひとつ頷く。照れ笑いを浮かべるAは、本当にさっきまでとは大違いの晴れやかさがあった。
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作者名：午睡 | 作成日時：2020年9月16日 22時
