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温かさの中に少し冷たさを含んだ春風が髪を揺らす。
その風は髪だけでなく手元の本のページをも勝手に捲る。
そこで俺の意識は小説から、現実へと引き戻された。
私立洛山高校 屋上。
「…チッ、寒いと思ったらもう夕方だったか」
空を見上げるとここに来た時はまだ日暮れ前だった空が
今はもう夕方のオレンジに混ざるように
紫色の夜空が遠くの方で見え隠れしていた。
俺は本を自らの鞄にしまうと、どこかで飯でも食ってから寮に戻ろうかと考えながら立ち上がる。
「あの、」
「…。……何」
ぶっちゃけ。
本を仕舞ったあたりから近くに人が居た事には気づいていた。
いつから居たんだと思うと同時に、
俺とは何の関係も無い屋上の利用者だと思っていた。
そもそも俺の存在になんて気付いて居ないとすら思っていたし。
だから、話しかけられて少しだけ驚いた。
周りを見て俺以外が居ない事を確認して、
やっと返事を返したくらいだ。
一体、俺なんかに何の用が。
改めて名前も知らない女を見ると、
赤く染った顔を上げたまま決意の籠った瞳を俺に向けた。
「私を、あなたの彼女にしてくれませんか？」
「……は？」
「黛くんが好きです」
それが告白だと気付いて、一泊の間。
まず真っ先に頭に浮かんだ言葉は「屋上で告白って二次元でしか無いと思ってた」だった。
いや、たまたま俺が屋上に居たからでここが教室だったなら教室で告られてたに違いないのだろうけれど。
……そして、次に思ったのは
思ったどころか、口に出したのは。
「誰だ、お前」
他意は無かった。
ただ本当に知らない女で、…制服を着ていて俺を君付けしたのだから同級生なのは確かなのだろうが
知らなかったから、聞いてしまった。
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作者名：由麻 | 作成日時：2024年3月26日 0時
