アイツの空 (ページ35)

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慌てて言って。

「寒いから戻るね」

屋上から逃げるように、
出て来ちゃった。

そんなに大きいホールでもないのに、
コンサート会場は人でいっぱい。

こんなとこでショータが見つかるのか不安になってきた。

ショータは今日も、
イラストレーターの最上くんのところに行ってる。

なかなか出られないのかもしれない。

遅れるのかなって、
もしかして、来れなくなるかな。

不安になってくる。

人だかりが会場の中に吸い込まれて行って、
もう、ここには私一人。

中から、すごい音が響いてきた。

始まっちゃう？

その時。

大通りから、
会場に続く階段を、
ショータから駆け上がってくるのが見えた。

「ごめん。遅れて」

私の目の前まで来て。

よっぽど急いで来たのか、
肩で息してるのに。

「行こ。まだ間に合う」

私の手をきつく握って、駆け出す。

駆け込んだ会場の中。

大音響と、
すごい歓声に包まれた。

ちょうどバンドのメンバーが、
ステージに飛び出してきたところだった。

「間に合った・・・」

ショータが呟いて、
私の手をぎゅって握りしめた。

スタンド席の階段、
落ちないように。

多分、それだけなのに。

鼓動が半端なく早くなる。

これはコンサートのせいにしておこう。